「まもなく開演五分前です! 出演者は袖に集合してください!」
放送委員の焦ったようなアナウンスが響き渡る。
ざわめく体育館の喧騒から逃れるように、私は一人、暗い舞台袖の裏手で小さく息を吐いた。
華やかなスポットライトが当たる場所から少し離れた、冷たいコンクリートの隅。
――私には、あんな風に眩しい光を浴びながら生きる資格なんてない。ずっとこうして、誰かの影に隠れて毒を吐いていればいい。
「こんなところで何してんの、若葉ちゃん」
ふと、頭の上から降ってきた声に、私はビクリと肩を揺らした。
振り返ると、そこに立っていたのは光輝だった。
すでに王子の衣装に身を包んでいる彼は、みんなの前で見せる「作られた笑顔」ではなく、あの図書室で見せたような、穏やかで柔らかな目をしていた。
「……別に。サボってるわけじゃないし。もうすぐ出番でしょ、みんなのところに戻ったら?」
私がそっぽを向いて冷たく言い放つと、光輝は困ったように小さく笑った。
「みんなの前じゃなくて、今は君の前にいたいから来たの」
「っ……なっ、何言ってるのよ、もうすぐ本番なのに!」
カッと顔が熱くなる。
光輝は私の目の前まで歩み寄ると、私の震える手をそっと包み込んだ。その手のひらは驚くほど温かくて、私の頑なな心を不意に溶かしていく。
「緊張してるのは、双葉ちゃんだけじゃないよ。俺だって、本当はすごく怖いんだ。……でも、君が客席のどこかにいてくれると思えば、この仮面をかぶってステージに立てる気がするんだよ」



