文化祭前夜。学校に残って最終準備をする私たち4人は、図書室のテラスに集まっていた。
夜風が冷たい。
気まずい沈黙を破ったのは、意外にも智樹だった。
「……おい、若葉」
智樹がぶっきらぼうに缶コーヒーを私に突き出す。
「なんだよいきなり」と受け取ると、智樹は双葉と光輝に視線を移した。
「……俺はさ、ずっと兄貴の完璧さを見てるのが嫌いだった。でも、兄貴もずっと無理してたんだって最近気づいた。……まあ、だから何ってわけじゃないけどさ」
照れくさそうに目を逸らす智樹の言葉に、光輝が「お前、成長したな」と茶化すように笑う。
その穏やかな空気の中、双葉はそっと私を見た。
「若葉……私ね、ずっと隠してたの。しっかり者にならなきゃって、怯えてたの。でも、もう隠すのやめる。……若葉は、私の自慢の妹だから」
姉のまっすぐな瞳を受け止めきれず、私は顔を背けた。
だけど、逃げ出した私の視線の先には、真っ直ぐこちらを見つめる光輝がいた。
光輝は私の隣に歩み寄ると、みんなに聞こえないくらいの小さな声で言った。
「若葉ちゃん。……俺が本当に見てるのは、双葉ちゃんじゃない。君だから」
その言葉に、止まっていた私の世界が、音を立てて色を取り戻した。
不器用で、ひねくれていて、傷だらけだった私たちの境界線は、この夜、確かな熱を持って溶け合っていくのだった。



