その黒曜 番外編

砂浜にぽつんと直立不動で立っていた多久は、一ノ瀬の横でオドオドしている

「あの、一ノ瀬先輩。幹部の皆さんが、あんなに子供みたいに大はしゃぎするなんて、何だか新鮮です……」

「……やれやれ。普段の品性はどこへ行ったのやら。多久君、我々はあのような俗物とは違います。ここで静かに波のファクト(事実)でも眺めて――」

「おーい、一ノ瀬! 多久くん! 何すましてんだよ、お前らも来いよぉ!!」

ザバァァァン!!!

「……っ!?」

次の瞬間、蓮と陸が両手で掬い上げた大量の海水が、砂浜の一ノ瀬と多久の顔面に容赦なく直撃した。

きっちり上まで留められた一ノ瀬のカッターシャツが、一瞬でビショビショに濡れる

一瞬の静寂。

一ノ瀬の額から、海水がポタポタと滴り落ちる

「……千堂、蓮。鳴海、陸。あなた方は、我が黒曜の規律を完全に忘れたようですね」

一ノ瀬が黒のレザー手袋をギチッと軋ませ、底冷えのするような、怒り狂った笑顔を向けた

「げぇっ! 一ノ瀬先輩マジギレ!! 多久くん助けてー!」

陸が叫ぶが、一ノ瀬はすでに猛烈な勢いでネクタイを外し、砂を蹴って2人を追いかけ回し始めていた

一気にお祭り騒ぎになる砂浜。

「あははは! 一ノ瀬のやつ、完全にスイッチ入っちゃってんじゃん!」

それを見て、颯太が腹を抱えて大爆笑する

「本当に、男の子たちは元気でよろしいですね」

レイも缶コーヒーを片手に、クスクスと上品に笑っていた