だるさに耐えながら授業を受け、帰る時間になった。
よし、よく耐えた、自分。
帰れることに胸を弾ませながら教科書をカバンに入れていると、ふと、Noahのクリアファイルが目に入ってドキッとした。
そうだ、私、知っちゃったんだよな…。
あれから叶愛くんに話しかけられることもなく、あの出来事が嘘みたいだ。
そして何気なくファイルをぺろっとめくると、委員会のプリントが目に飛び込んできた。
げっ!
そういえば、今日までに書類をホチキス留めしなきゃならないんだっけ。
それに、厚生委員会は私と叶愛くんと不登校の西川くんだ。
「千春ー!かーえろっ」
「ごめん美奈…。委員会の仕事残ってた」
「まじ?先帰っといてもおけ?」
「うん、全然大丈夫。ごめんね」
そうやって、クラスメイトは次々に帰っていった。
ため息をつきながらボックスの書類をぼうっと見ていると、後ろから声がかけられる。
「高橋」
「びゃっ」
びっくりした…。
後ろを振り返ると、整った顔の叶愛くんが少しだけ顔をしかめていた。
「俺も忘れてた。一緒にやろうぜ」
「あっ、う、うん、ハイ」
いつも通りだ…。
もしかして、叶愛くんはすっかり私との会話を忘れているのだろうか。
それとも、からかっただけで実はNoahじゃないの?本当に声が似ていただけ?
っていうか、叶愛くんがNoahならどう接すればいいんだろう。
いろいろなことが駆け巡るが、叶愛くんは、平然とした表情で書類を運んでいた。
もしかして、忘れてくれてるのかも…?
そう思った私がばかでした。
席につくなりなんなり、彼は私に質問攻めをしてきた。
しっかりホチキスはとめてくれているんだけど、私は頭がパンクしそうでそれどころじゃない。
「いつ頃から好きだったの?」
「俺がNoahって知ってどう思った?」
「ちはって呼んでいい?」
目線を下に落としたまま淡々と聞いてくる彼だが、Noahと思うとやっぱりどう接していいかわからない。
「え、えっと、デビュー曲聞いてときめいて、そこから。で、Noahって知ってえっと…。えーと、単純にびっくりしたかな」
彼は一切表情を変えずに作業を進めていく。
「で、ちはって呼んでいい?」
「…ん?」
同じトーンですごいことを聞かれた…気がするなあ?
ちはって私のことだよね?
「な、なんで?なんでNoahって知ったからってちはって呼ばれる必要が…。」
「えー。…高橋、より呼びやすい、から?」
「はぁ」
なんかはぐらかされた気がする!
「じゃ、じゃあ!私彗くんって呼んでいい?」
「いいよ」
随分あっさりとOKされたなあ。
呼ばれ方とか呼び方にはこだわりがないタイプなのかな?
不思議。
「っていうか、そっちが質問してきたなら私も聞きたいことたくさんあるんだけど」
「どうぞ」
こんなにもあっさりされると、逆にNoahという実感が湧かない。
普通、きゃー!とかなるかもしれないけれど、本当に実感が湧かないのだ。夢を見ている感じ。
「次、いつ新曲とか出るの!?」
「うわっ、すげーオタク感出てる」
嫌そうな顔をしたけど…でも聞けるのは今しかないもんね!
「聞いちゃっていいタイプ?楽しみにしたいとかないの?」
「聞いた方が楽しみにできるじゃん」
「…二週間後くらい」
「えーっ!」
私が顔を輝かせたのを見て、彗くんはさらに顔をしかめた。
「うわっ、ガチでファンじゃん」
「もちろんっ。で、なんで楽屋でも被り物外さないの?」
「すげー知ってるな。外すという行為自体めんどくさい、つーの?」
「雑誌のインタビューで中華が好きって言ってたじゃん!?あれ、なんか親近感湧いて嬉しかった!」
「あー、あれ?こう見えて餃子好きだから」
特に気にする様子もなく、彗くんはするする質問に答えてくれる。
「あの曲、実はラブソングって考察されてるけど実際どうなの?」
「他にないラブソング作りたかったから合ってるよ」
「へぇー!」
「逆に聞くけど、一番好きな曲は?」
「Utopiaかな」
「まじで?あれ、中間テストの時に作った」
「ほぇ〜!!!」
満面の笑みの私は、ふとあることを思いつく。
なぜかどの雑誌でも聞かれていなかったこと。真っ先に聞いてもおかしくないのに。
「なんでNoahって名前にしたの?」
すると、彗くんの顔が曇った。
「それは…」
私は後悔した。
どの雑誌でも聞かれていなかったということは、裏を返せば聞かれたくなかったことじゃないのだろうか。
なんで考え付かなかったんだろう。
「あ…」
すると彗くんは無理やり口角を上げたように笑った。
「なんか適当に?」
それきり、私たち二人は黙り込んでしまった。
さっきまで夢のような時間だったのに。
なんであんなことを聞いてしまったんだろう。なんで思いつかなかったんだろう。
すると、書類をめくっていた手が止まった。
「…おわった」
彗くんは一言だけぽつりと言うと、私の作ったものも全て運んでボックスに入れてくれた。
「あ、ありがとう…」
怒らせてしまったのかな。
不安になっていると、彼は口を開いた。
「…もうみんな帰ったし、一緒に帰るか」
えぇえ彗さん、この空気でそれ言いますか…。
リュックを背負って二人で歩き出す。
「でも私チャリ通だよ」
「俺も」
「えっ」
びっくりして自転車置き場を見ると、私のじゃない自転車が隅っこにポツンと置かれていた。
「だ、大丈夫?カップルみたいに思われない?」
心配になって聞くと、彼はニヤリと笑った。
「俺の正体知った時点でカップルみたいなもんだろ」
私は口を開けて固まってしまう。
え、なに、こいつそういうやつだったの?
でも隣にいるのがNoahと思うと、少し、ほんの少しだけ胸が高鳴る。
「?何固まってんの」
「え、え?え、彗くんってそーゆーやつだったの?」
理解できずそのまま固まっていると、彗くんが私の手首を掴んで引っ張った。
たったそれだけなのに、私はドキッとしてしまう。
「だーっ、誤解すんなって!言いふらさないように見張っとくだけだから!」
「もしかして私、信用されてないのー!」
そのまま、ぐいぐい引っ張られる。
彗くんは、今、何を考えているんだろう。
私みたいに、ちょっとドキドキしてたらいいな。
そうして、私たち二人はそのまま自転車で帰った。
結局、彗くんの自転車が爆速で着いて行くのに精一杯で何も喋れなかったんだけどね。
よし、よく耐えた、自分。
帰れることに胸を弾ませながら教科書をカバンに入れていると、ふと、Noahのクリアファイルが目に入ってドキッとした。
そうだ、私、知っちゃったんだよな…。
あれから叶愛くんに話しかけられることもなく、あの出来事が嘘みたいだ。
そして何気なくファイルをぺろっとめくると、委員会のプリントが目に飛び込んできた。
げっ!
そういえば、今日までに書類をホチキス留めしなきゃならないんだっけ。
それに、厚生委員会は私と叶愛くんと不登校の西川くんだ。
「千春ー!かーえろっ」
「ごめん美奈…。委員会の仕事残ってた」
「まじ?先帰っといてもおけ?」
「うん、全然大丈夫。ごめんね」
そうやって、クラスメイトは次々に帰っていった。
ため息をつきながらボックスの書類をぼうっと見ていると、後ろから声がかけられる。
「高橋」
「びゃっ」
びっくりした…。
後ろを振り返ると、整った顔の叶愛くんが少しだけ顔をしかめていた。
「俺も忘れてた。一緒にやろうぜ」
「あっ、う、うん、ハイ」
いつも通りだ…。
もしかして、叶愛くんはすっかり私との会話を忘れているのだろうか。
それとも、からかっただけで実はNoahじゃないの?本当に声が似ていただけ?
っていうか、叶愛くんがNoahならどう接すればいいんだろう。
いろいろなことが駆け巡るが、叶愛くんは、平然とした表情で書類を運んでいた。
もしかして、忘れてくれてるのかも…?
そう思った私がばかでした。
席につくなりなんなり、彼は私に質問攻めをしてきた。
しっかりホチキスはとめてくれているんだけど、私は頭がパンクしそうでそれどころじゃない。
「いつ頃から好きだったの?」
「俺がNoahって知ってどう思った?」
「ちはって呼んでいい?」
目線を下に落としたまま淡々と聞いてくる彼だが、Noahと思うとやっぱりどう接していいかわからない。
「え、えっと、デビュー曲聞いてときめいて、そこから。で、Noahって知ってえっと…。えーと、単純にびっくりしたかな」
彼は一切表情を変えずに作業を進めていく。
「で、ちはって呼んでいい?」
「…ん?」
同じトーンですごいことを聞かれた…気がするなあ?
ちはって私のことだよね?
「な、なんで?なんでNoahって知ったからってちはって呼ばれる必要が…。」
「えー。…高橋、より呼びやすい、から?」
「はぁ」
なんかはぐらかされた気がする!
「じゃ、じゃあ!私彗くんって呼んでいい?」
「いいよ」
随分あっさりとOKされたなあ。
呼ばれ方とか呼び方にはこだわりがないタイプなのかな?
不思議。
「っていうか、そっちが質問してきたなら私も聞きたいことたくさんあるんだけど」
「どうぞ」
こんなにもあっさりされると、逆にNoahという実感が湧かない。
普通、きゃー!とかなるかもしれないけれど、本当に実感が湧かないのだ。夢を見ている感じ。
「次、いつ新曲とか出るの!?」
「うわっ、すげーオタク感出てる」
嫌そうな顔をしたけど…でも聞けるのは今しかないもんね!
「聞いちゃっていいタイプ?楽しみにしたいとかないの?」
「聞いた方が楽しみにできるじゃん」
「…二週間後くらい」
「えーっ!」
私が顔を輝かせたのを見て、彗くんはさらに顔をしかめた。
「うわっ、ガチでファンじゃん」
「もちろんっ。で、なんで楽屋でも被り物外さないの?」
「すげー知ってるな。外すという行為自体めんどくさい、つーの?」
「雑誌のインタビューで中華が好きって言ってたじゃん!?あれ、なんか親近感湧いて嬉しかった!」
「あー、あれ?こう見えて餃子好きだから」
特に気にする様子もなく、彗くんはするする質問に答えてくれる。
「あの曲、実はラブソングって考察されてるけど実際どうなの?」
「他にないラブソング作りたかったから合ってるよ」
「へぇー!」
「逆に聞くけど、一番好きな曲は?」
「Utopiaかな」
「まじで?あれ、中間テストの時に作った」
「ほぇ〜!!!」
満面の笑みの私は、ふとあることを思いつく。
なぜかどの雑誌でも聞かれていなかったこと。真っ先に聞いてもおかしくないのに。
「なんでNoahって名前にしたの?」
すると、彗くんの顔が曇った。
「それは…」
私は後悔した。
どの雑誌でも聞かれていなかったということは、裏を返せば聞かれたくなかったことじゃないのだろうか。
なんで考え付かなかったんだろう。
「あ…」
すると彗くんは無理やり口角を上げたように笑った。
「なんか適当に?」
それきり、私たち二人は黙り込んでしまった。
さっきまで夢のような時間だったのに。
なんであんなことを聞いてしまったんだろう。なんで思いつかなかったんだろう。
すると、書類をめくっていた手が止まった。
「…おわった」
彗くんは一言だけぽつりと言うと、私の作ったものも全て運んでボックスに入れてくれた。
「あ、ありがとう…」
怒らせてしまったのかな。
不安になっていると、彼は口を開いた。
「…もうみんな帰ったし、一緒に帰るか」
えぇえ彗さん、この空気でそれ言いますか…。
リュックを背負って二人で歩き出す。
「でも私チャリ通だよ」
「俺も」
「えっ」
びっくりして自転車置き場を見ると、私のじゃない自転車が隅っこにポツンと置かれていた。
「だ、大丈夫?カップルみたいに思われない?」
心配になって聞くと、彼はニヤリと笑った。
「俺の正体知った時点でカップルみたいなもんだろ」
私は口を開けて固まってしまう。
え、なに、こいつそういうやつだったの?
でも隣にいるのがNoahと思うと、少し、ほんの少しだけ胸が高鳴る。
「?何固まってんの」
「え、え?え、彗くんってそーゆーやつだったの?」
理解できずそのまま固まっていると、彗くんが私の手首を掴んで引っ張った。
たったそれだけなのに、私はドキッとしてしまう。
「だーっ、誤解すんなって!言いふらさないように見張っとくだけだから!」
「もしかして私、信用されてないのー!」
そのまま、ぐいぐい引っ張られる。
彗くんは、今、何を考えているんだろう。
私みたいに、ちょっとドキドキしてたらいいな。
そうして、私たち二人はそのまま自転車で帰った。
結局、彗くんの自転車が爆速で着いて行くのに精一杯で何も喋れなかったんだけどね。

