Dear Darling

澄みきった秋空が広がっていた。

 墓地へ続く坂道を、ひまりと蓮はゆっくりと歩く。

 二人の手には花と線香。

 言葉はほとんどなかった。

 それでも、寄り添って歩く足並みは自然と揃っていた。

 春香の墓の前で足を止める。

 ひまりは静かに花を供え、線香に火を灯した。

 手を合わせる。

 瞼を閉じると、春香の笑顔が浮かんだ。

 高校時代。

 何気なく笑い合った日々。

 大学へ進んでも変わらなかった友情。

 そして、事故の日の笑顔。

 ひまりはゆっくりと目を開け、墓石を見つめた。

「春香。」

 小さく名前を呼ぶ。

「約束、守ったよ。」

 ひと呼吸置いて続ける。

「一緒に会いに来た。」

 蓮は少し離れた場所で、静かに二人を見守っていた。

「やっと来られた。」

 一筋の涙が頬を伝う。

「遅くなって、ごめんね。」

 少しだけ目を閉じる。

「あの時ね……。」

「事故の時、春香がずっと私の名前を呼んでくれていたの、聞こえてたよ。」

「怖かったはずなのに、最後まで私のことを思ってくれてありがとう。」

 涙を拭い、小さく息をつく。

「私ね、全部思い出したよ。」

「春香と過ごした時間も。」

「結婚したことも。」

「全部。」

「少しずつ前を向いていくね。」

「また会いに来る。」

 しばらく静かな時間が流れた。

 やがて蓮がゆっくりと歩み寄る。

 ひまりは涙を拭き、穏やかな表情で振り返る。

 二人は言葉を交わさない。

 そっと並んで墓前に一礼すると、静かに歩き出した。