Dear Darling

リハビリは順調に進んでいた。

 歩く練習も始まり、病室の窓から見える桜は、日に日に花びらを散らしていく。

 そんなある日、担当医が病室を訪れた。

「今日は警察の方がお話を伺いに来られます。無理のない範囲で結構ですので、お答えください。」

 ひまりは静かに頷いた。

 病室には蓮と母も付き添っていた。

 しばらくして、二人の警察官が病室へ入ってくる。

「体調の優れない中、お時間をいただきありがとうございます。」

 事情聴取は穏やかに始まった。

 事故当日のこと。

 春香と久しぶりに再会したこと。

 帰り道だったこと。

 道路へ飛び出したボール。

 急ハンドル。

 正面から迫る大型トラック。

 ひまりは思い出せることを、一つひとつゆっくりと話した。

 警察官は丁寧にメモを取り、静かに頷く。

「ご協力ありがとうございました。」

 そう言って手帳を閉じると、一人の警察官が表情を曇らせた。

「……最後に、お伝えしなければならないことがあります。」

 病室に、重い沈黙が流れた。

 誰も言葉を発しない。

 蓮は黙ってひまりの手を握る。

 その手は、少し震えていた。

 ひまりは蓮の横顔を見る。

 母は俯き、唇を強く噛みしめている。

 胸の奥が、ざわついた。

 警察官は静かに息を吸い、ゆっくりと口を開く。

「春香さんは……。」

 短い沈黙が流れる。

「懸命な治療が行われましたが、お亡くなりになりました。」

 その言葉が耳に届いた瞬間、時間が止まった。

「……え?」

 頭が真っ白になる。

「嘘……。」

 小さく漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。

「春香が……?」

 蓮は何も言えなかった。

 ただ、ひまりの手を強く握り返す。

 母は涙を流しながら、娘の肩にそっと手を添えた。

「そんな……。」

 春香の笑顔が浮かぶ。

 高校時代。

 卒業式。

 久しぶりの再会。

 車の中で笑い合った時間。

『またみんなで会おうね。』

 その声が頭の中で何度も響く。

「違う……。」

「そんなはずない……。」

 呼吸が苦しい。

 胸が締めつけられる。

 目の前が揺れる。

「ひまり!」

 蓮の声が遠く聞こえた。

 身体から力が抜けていく。

 視界は白く霞み、

 やがて、すべてが静かな闇へと溶けていった――。