Dear Darling

――キキィィィィッ!!

 耳をつんざくブレーキ音。

 次の瞬間。

 ドォォォンッ!!

 凄まじい衝撃が車内を突き抜けた。

 シートベルトが胸と腹部へ強く食い込み、息が一気に押し出される。

「っ……!」

 フロントガラスが激しく砕け散り、細かな破片が宙を舞う。

 車体が大きく揺れ、鈍い音を立てて停止した。

 一瞬。

 世界から音が消えた。

 何が起きたのか分からない。

 耳鳴りだけが響いている。

 焦げたような臭い。

 エアバッグの白い布。

 どこかでラジエーター液が漏れる音が、ぽたっ、ぽたっと静かに響く。

 ひまりは息を吸おうとした。

「……っ!」

 吸えない。

 腹部に焼けるような激痛が走る。

 シートベルトの下から、じわりと温かい感覚が広がっていく。

 視界がぼやけた。

「ひまり!」

 聞き慣れた声だった。

 春香だ。

 額から血を流し、苦しそうに息をつきながら、それでも必死にひまりへ身体を向けている。

「ひまり! 聞こえる!?」

 身体を動かすたび、苦痛に表情がゆがむ。

 それでも震える手をひまりの肩へ伸ばした。

「大丈夫!」

「すぐ救急車が来るから!」

「お願い……目を開けて!」

 ひまりは返事をしようと唇を動かす。

 けれど、声にならない。

 胸が苦しい。

 息が続かない。

 遠くから、誰かの叫ぶ声が聞こえた。

「誰か! 救急車!」

 やがて、かすかにサイレンの音が近づいてくる。

 春香は涙を浮かべながら、何度もひまりの名前を呼び続けた。

「ひまり……!」

「大丈夫だから!」

「もうすぐ助けが来る!」

「だから頑張って!」

 その声だけが、遠ざかる意識の中で何度も響いていた――。