Dear Darling

小鳥のさえずりが、静かな朝を運んできた。

 その声に誘われるように目を覚まし、私は窓辺へ歩く。

 そっとカーテンを開けると、庭では蓮さんがホースを手に花へ水をあげていた。

 ホースの先からこぼれる水が、朝日に照らされてきらきらと弧を描く。

 一本一本の花へ語りかけるように、優しく水をかけていく。

 その眼差しは、どこまでも穏やかだった。

 私は窓越しに、その姿を見つめていた。

 どうしてこんなに目で追ってしまうんだろう。

 仕事をしているときも。

 コーヒーを飲む仕草も。

 本を読んでいる横顔も。

 何気なく笑う、その表情も。

 気づけば私は、いつも蓮さんを探している。

 姿が見えるだけで安心して。

 目が合うだけで嬉しくなって。

 優しく名前を呼ばれるだけで、胸の奥がそっと温かくなる。

 ……いつからだろう。

 こんなふうに、一人の人のことばかり考えるようになったのは。

 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

 苦しい。

 でも、嫌じゃない。

 このままずっと、この気持ちを感じていたいと思ってしまう。

 この気持ちを、私は知っている。

 でも――

 認めてしまうのが、少しだけ怖かった。

 記憶をなくした私が、こんな気持ちになるなんて。

 少しだけ照れくさくて。

 少しだけ、くすぐったい。

 私は小さく笑い、そっと胸に手を当てた。

 そのときだった。

 庭仕事を終えた蓮さんが、ふいにこちらを振り向く。

 目が合う。

 蓮さんは、いつものように優しく微笑んだ。

 その笑顔だけで、胸がいっぱいになる。

 気づけば私は、窓ガラスへそっと手を添えていた。

 抱きしめたい。

 その温もりに、触れてみたい。

 ――ああ。

 もう、ごまかせない。

 私は――

 蓮さんに、恋をしている。