Dear Darling

翌朝。

カーテンの隙間から差し込む朝日で、ひまりはゆっくりと目を覚ました。

昨日、公園で起きた出来事を思い出し、胸の奥が少しだけざわつく。

けれど、そのあとに聞こえた声も思い出した。

――大丈夫。

その一言が、不思議と心を落ち着かせてくれる。

着替えを済ませ、キッチンへ向かう。

炊きたてのご飯の湯気。

味噌汁の香り。

卵焼きを焼く音。

少し前まで緊張していた朝の支度も、今では少しずつ日常になり始めていた。

「おはよう。」

リビングから蓮の声が聞こえる。

ひまりは振り返った。

「……おはよう、蓮さん。」

言葉を口にした瞬間、自分でも少し驚く。

“ございます”が出なかった。

でも、不思議と違和感はなかった。

「いい匂いだね。」

「もうすぐできるから、座って待ってて。」

蓮は小さく笑って椅子に腰掛ける。

二人で朝食を囲む。

「いただきます。」

「いただきます。」

穏やかな時間が流れる。

味噌汁をひと口飲んだ蓮が微笑んだ。

「今日もおいしい。」

ひまりも自然と笑う。

「ありがとう。」

その一言に、自分でまた小さく驚く。

前ならきっと、

『ありがとうございます。』

そう言っていた。

蓮は気付いたような、気付いていないような顔で微笑むだけだった。

食事を終え、蓮はネクタイを整える。

「じゃあ、行ってくる。」

玄関まで見送ったひまりは、少し照れながら笑った。

「うん。いってらっしゃい、蓮さん。」

蓮は一瞬だけ目を細める。

「行ってきます。」

玄関の扉が静かに閉まる。

ひまりはその場に立ったまま、小さく息を吐いた。

「……うん、か。」

思わず笑みがこぼれる。

少しずつ。

本当に少しずつ。

昨日よりも、蓮さんが近く感じられた。