ワースト・エデン



ゴッという、骨の軋む音とともに強烈な熱が私の左頬を襲った。

ぺたり、なんて可愛らしい擬音ではなく、どさり、という音とともに倒れた身体。



「っい、⋯ったぁい⋯」


殴られた、とわかるまでに約10秒かかった。

だって、見ず知らずの人に女の子がいきなり殴られるなんて誰も思わないじゃん!?
歯だって食いしばってる暇なかったから口の中が血の味だし。⋯え、この黒ずくめ、なに?


被害者だということをここでも見せつけるように頬を両手で押えて身を縮こませる。

そしてまるで怪物でも見た時のように、怯えた目をして見せた。



「な、なにするんですか⋯!?」

「⋯」

「ぼ、暴行罪で訴えるからね!?いいの!?」

「⋯」


私がギャーギャー喚こうと一言も言葉を発しない彼は、ただ上からじっと私のことを見下ろしていた。

その、表情のない顔が妙に心を擽って、ざわつかせる。

今まで味わった事のない、恐怖心。


「~っなんかいえ、このやろう!」

「⋯」

「わ、私は払わないぞ!裕二くんの借金であって私の借金じゃなっ、いっ!?」


その恐ろしいほどのざわつきを誤魔化そうと怯えた目をやめてキッと黒髪のお兄さんを睨みつければ、身体を支えるように床についた手の甲を、革靴で踏まれた。


きっと、手加減なんてしてくれていないと思う。


「っう、ぐっ、」


手を踏んだまま、思い切り胸ぐらを掴んで目線を合わせたお兄さんは、やっぱり色のない顔をしていた。