そして、私の様子を伺いながら
彼は静かに語りかけてくる。
「うちのカフェ、メニューがないんです。その日それぞれの、お客様の気持ちに寄り添ったものを提供していて」
あれだけ強い言葉をぶつけてしまったのに。
それでも変わらず優しく微笑む彼に、なんだか少しだけ申し訳なさを覚えて、私はぎこちなく視線を落とした。
「お代は一律500円です。どのお菓子を選んでいただいても、すべてそのお値段で提供しています。ドリンクは無料ですよ。……とりあえず、少し酸味のあるレモン水をどうぞ。少しだけ、気持ちが落ち着きますから」
「レモン水なんて、誰にだって作れる」
そんなことを思いながらも、透き通るガラスのコップを手に取り、一口だけ口に含んだ。
スーパーで買ってきたレモン汁を水に混ぜて冷やせば、それだけで作れてしまうような代物だ。
それなのに、体内へと流れ込んだたった一口のレモン水は、不思議なほどすんなりと、私の胸の苛立ちを鎮めていく。



