全部、どうでもいいと思った。
私の今までの恋愛は、本当に散々なものだった。
1人目は浮気
2人目は既婚者
そして――ついさっき私を振った3人目は、私がすぐ近くにいるのを知っていながら、見せつけるように他の女とキスをした。
「はは……ウソでしょ……」
込み上げてくる感情を抑えきれず、私は走った
涙で視界がぐしゃぐしゃにボヤけたまま、自分が今どこを走っているのかも把握しないまま
ただ、この痛みに耐えきれなくて、すがりつくようにたまたま目についた扉を押し開けた
カランコロン、と澄んだ鈴の音が響く。
そこが、ショコラティエのいる不思議なカフェ――『Cafe menu Original』だった。
「おっと、いけない。お姉さんこれどうぞ。さっき保温庫から出したばかりの蒸しタオルです。温かくて気持ちいいですよ」
「……なんで、こんなこと…」
「ここに来てくれたお客様には、絶対に笑顔で帰ってほしいんです。それが、僕がこの仕事をする理由なので」
なかなかタオルを受け取らない私に苦笑しながら、彼はそっと手を伸ばした。涙の軌跡をなぞるように、あたたかいタオルで丁寧に拭ってくれる。
「なにか、つらいことでもありました?」
あまりにも鋭く、私の中を見抜いた彼。
「なんで分かるの?」なんて言葉より先に、見抜かれてしまったことに苛立ちさえ感じてしまう。
これ以上、自分を傷つけられたくなくて。
私は彼を強く睨みつけた。
「あなたに……あなたに、私の何が分かるんですか。ここはカフェでしょう、注文するまで放っておいてください」
強い拒絶の言葉。
けれど、彼は嫌な顔ひとつせず、ただ静かに私を見つめていた。



