住宅街の外れに〝失くした物が戻ってくる〟という不思議な自動販売機がある。
値段は、百円。
ある人は、大切にしていたぬいぐるみ。
ある人は、受験日になくしたお守り。
ある人は、結婚指輪や財布。
誰もが一度は試し、誰もが本当に失くした物を取り戻したという噂が途切れない。
「もし戻るなら……」
私も半信半疑で百円玉を握りしめる。
戻ってきてほしいのは、不慮の事故で死んでしまった妻だった。
どんな姿でもいいから、もう一度会いたい……。
祈るような気持ちで硬貨を入れると、ガタン、と重たい音がした。
取出口から落ちてきたのは、小さな白い骨壺だった。
妻の遺骨だろうか。
私が会いたかったのは、こんな形じゃない。
ガッカリしながら骨壺を手に取ると、そこには名前が書かれていた。
【山田 康一】
なぜか、私の名前だった。
その瞬間、妻とのドライブ中に自分でトラックに追突したことを思い出した。
ああ、そうか。そうだった……。
失くした物が戻ってくる自動販売機。
私はようやく、自分が失っていたものを思い出した。
〈解説〉
♦️自販機から出てきた骨壺に書かれていたのは、妻ではなく語り手自身の名前。それが、なにを意味するかもうわかるわよね?
♣️つまり、妻だけが死んだと思い込んでいたけど、実際には自分も命を落としていたんだね。
♦️そのおかげでなくしていたものに気づいたというキレイな話に思えるけれど、本当にそうかしら?
♣️どういうこと?
♦️語り手はトラックに追突されたのではなく、自分で追突したと言っているわ。そうなると、事故は不慮ではなく故意ということになる。
もし妻まで道連れにしたのだとしたら――。
この物語で本当に戻ってきたのは、失われた命ではなく、恐ろしい事実の記憶かもしれないわ……。



