「あと一時間で隕石が衝突します」
テレビの中のアナウンサーが震える声で伝えていた。
今日は、地球最後の日。
巨大隕石が地球へ衝突し、人類は滅亡するという。
我が家では避難はせず、久しぶりに家族四人で食卓を囲んでいた。
「わはは、どうせ最後なんだ。笑って過ごそう!」
ビールを飲み干したお父さんは、開き直ったみたいに笑った。
たしかに、不安になったってもう仕方ない。
「私もビール飲む。お母さん、コップちょうだい」
「え、あんたまだ未成年でしょう?」
「あと三日で二十歳だから、この際べつにいいでしょ。お酒の味も知らずに滅亡したくないし」
私の心意気……いや、侠気を見直したみたいにお父さんは「いいぞ、飲め、飲め!」と、お酒を注いでくれた。
楽しい夕食もそこそこに、弟がぽつりと呟いた。
「実は……ずっと隠していたことがあって、俺、三か月くらい大学に行ってないんだ」
弟の告白に、私たちは顔を見合わせる。
きっと最後だから、言えなかったことを打ち明けてくれたのだろう。
そんな弟の肩をぽんと叩くと、安心したようにぽろぽろと泣き出した。
「じ、実は父さんも隠していたことがある」
「な、なに?」
「投資に失敗して1000万の借金があります……」
「ええっ!?」
さっきまでお酒で真っ赤だった顔が、みるみる青くなっていた。
お父さんの告白に、お母さんは意外なほど落ち着いている。
「借金のことは知っていたわ。あなたに隠し事なんてできないのよ」
お母さんがにこりと微笑むと、今度はお父さんが泣き出した。
「うう、ごめんな。俺が不甲斐ないばっかりに」
「いいのよ。誰だって秘密にしたいことはあるもの。ほら、私も」
そう言って、お母さんがテーブルに一枚の紙を置いた。
それは、判子まで捺してある離婚届だった。
「もう何年も前からあなたのことは愛してなかったわ」
「そ、そんな……」
「だから、今すぐ離婚届を書いてちょうだい」
「い、隕石が落ちてくるんだから、そんなの書いたって意味ないだろ」
「あなたと夫婦のまま死ぬなんてごめんだわ」
まさか、最後の日に親のこんなやり取りを聞くことになるなんて……。
「ちょっと、ふたりとも最後くらい仲良くしてよ」
「だったら、あんたもなにか告白しないさいよ」
「え、わ、私?」
「そうだぞ。みんな隠し事を打ち明けたんだから」
お母さんとお父さんが、変なテンションになっている。
弟だけは味方してくれると思ったのに「姉ちゃんも言いなよ」と、あっさり寝返った。さっき慰めてあげたのに……!
家族の視線が、一気に私へ集中する。
たしかに、隠し事ならある。
絶対に誰にも言わないつもりだったけど、今日で地球が終わりなら、なにもかもなかったことになるんだし、言ってもべつにいっか!
「実はこの前、彼氏とケンカしちゃって、その時に――」
ペラペラと秘密を打ち明けると、家族全員の顔から血の気が引いていた。
でも、大丈夫。だって、もうすぐ人類は滅亡……。
「速報です! 隕石の軌道が変わりました! 地球への衝突は奇跡的に回避! 人類は助かりました!」
先ほどのアナウンサーが、興奮気味に叫んでいた。
リビングが、しんっと静まり返る。
さっきまで終わりを覚悟していた世界は、一瞬でただの日常に戻ってしまった。
外では歓声が、あちこちで上がっている。
けれど、我が家だけは違った。
誰ひとり、私の顔を見ようとしない。
「な、なんちゃって、冗談でしたー!」
慌てておちゃらけてみたものの、すでに手遅れだった。
お母さんは震えながら立ち上がり、弟はどこかに電話をかけている。
そして、お父さんが私の腕を強い力で掴んだ。
「これから警察に行こう」
〈解説〉
♦️地球最後の日だと思い、家族はそれぞれ胸にしまっていた秘密を打ち明けたの。でも、語り手の告白だけは、隕石が逸れた瞬間に取り返しのつかないものになってしまったようね。
♣️警察に行くことになったということは、恋人とのケンカの最中に、とんでもない事件を起こしてしまったのかな?
♦️誰にも知られちゃいけない秘密は、たとえ地球最後の日でもお墓まで持っていかないとダメね!



