ある町に、病気の母親を救いたいと願う青年がいた。
しかし、医者から告げられたのは、あまりにも残酷な現実だった。
「もう助かる方法はありません」
絶望に打ちひしがれたその夜、青年の前に、白い着物をまとった女が静かに現れる。
「願いをひとつだけ叶えてあげましょう。ただし、一度叶えた願いは、決して取り消せません」
青年は迷わなかった。
「母さんを元気にしてください!」
「よいでしょう」
翌朝。昨日まで寝込んでいた母親は、まるで病気など最初からなかったように起き上がり、笑顔で朝食を作っていた。
青年は涙を流して喜び、母と子は再び穏やかな日々を取り戻した。
――それから数十年。
母親は百歳を迎えても、少しも衰えなかった。
青年は老人となり、自分の子供や孫に囲まれながら人生を全うする。
だが、母親だけは歳を取らない。
百二十歳。
百五十歳。
二百年。
青年が亡くなり、その子供も孫も、さらにその先の子孫たちまで寿命を迎えていった。
それでも母親だけは、若い頃と変わらぬ姿のまま生き続けていた。
「……どうして、私だけ」
愛する人を何度も見送り、ひとりぼっちになった夜。
白い着物の女が、再び母親の前に姿を現す。
息子から聞かされていた、願いを叶える女――。
母親は涙をこぼしながら、すがりついた。
「お願い……。もう死なせて。私も、みんなのところへ行きたいのっ!」
「残念ですが、その願いは叶えられません。一度叶えた願いは、決して取り消せないのです」
「そんな……」
「あなたはこれからも、永遠に健康なまま生き続けるでしょう」
誰もいなくなった世界で青年の母親は、今日も死ぬことさえ許されずに生き続けている。
〈解説〉
♦️最初は母親思いの優しい息子の物語だったのに、その優しさが、最後には母親を永遠に苦しめる結果になってしまったのね。
♣️「元気にしてください」じゃなくて、「病気を治してください」って願っていたら、未来は変わっていたのかな?
♦️あの白い着物の女なら、きっと別の形で落とし穴を用意していた気がするわ。願いを叶える代わりに、必ず代償を払わせる存在なのかもしれない。
♣️だからこそ、人には寿命があるんだね。終わりがあるからこそ、命は大切なんだ。
♦️でも、私は永遠に生き続けるのも悪くないわ!
だって、こうしてずっとずっと奇妙な話を買い取る人生が送れるなんて最高じゃない?



