転校してきたアオイくんは、休み時間になると決まって天井を見上げていた。
教室、廊下、体育館、灰色の天井を見つめては、少しだけ寂しそうに笑う。
「ねえ、いつもなにを見てるの?」
私が聞くと、アオイくんは「空だよ」と答えた。
すると、クラスメイト全員が大笑いした。
「空なんてあったのは、大昔の話だろ!」
「教科書で習ったのに、忘れたのかよっ?」
「アオイくんって、天然でおもしろーい!」
みんなにバカにされても、アオイくんは自分の意見を曲げない。
「空は今もあるよ! 本物の空は、眩しくて青いんだ!」
そう言うと、みんなはさらに笑い転げた。
社会の教科書には、昔の世界の写真が載っている。
青い空、白い雲、眩しい太陽。
だけど、先生は授業でこう言っていた。
『これは大昔の風景です。現在は観測できません』
空なんて誰も見たことがないものを、アオイくんは信じているし、実際に見たこともあるらしい。
「アオイくんは、どこで空を見たの?」
「それは……よく覚えてないけど、たしかに見た記憶は残ってるんだ。僕は嘘なんてついてない!」
その時、先生が教室に入ってきた。
みんなが『空』の話をすると、先生は、やれやれという感じで首を横に振った。
「アオイは転校してきたばかりで、まだこの環境に慣れてないんだな。授業が終わったら保健室に行って薬を打ちに行こう」
そうして、いつもどおりに授業が始まった直後だった。
ドドド、ドドドドッ!
校舎全体を揺らすような激しい振動が襲う。
「きゃーー!」「うわああああっ」
経験したことのない大地震に、クラス中がパニックになっていた。
「ぜ、全員、床に伏せなさい!」
先生の指示に従って、私も体を小さく丸める。
そんな中、アオイくんだけは、こんな時でも立ったまま天井を見上げていた。
「アオイ! 上を見るな!」
先生が、必死に叫んでいる。
その声に違和感を覚えた私は、思わず天井を見上げてしまった。
天井に入っている一本の亀裂。
パラパラと白い破片が落ちているその隙間の向こうに――。
見たこともない、青色が広がっていた。
青い空、白い雲、眩しい太陽。
それは、まさに教科書どおりの景色だった。
「ほらね、空はちゃんとあったでしょ?」
その瞬間、教室へ大勢の先生たちが駆け込んできた。
「急げ! 亀裂を塞げ!」
「生徒たちを保健室へ!」
「記憶処置を行う前に、空を見た人数を確認しろ!」
〈解説〉
♦️どうしてアオイくん以外の生徒が、一度も空を見たことがなかったのかわかる?
それはズバリ生徒たちは学校という名の人工施設の中で生活していたからよ!
♣️なるほど! 転校してきたばかりのアオイくんだけは、外の世界で空を見た記憶が残っていたってことなんだね。
♦️そのとおり。でも、もっと気になることがあるわ。先生はアオイくんに「保健室で薬を打とう」と言っていたでしょう?
♣️打つって……注射のこと?
♦️おそらくね。でも、養護教諭だけでは医療行為である注射はできないはずなの。
つまり、この学校には保健室の先生だけではない、もっと大きな組織が関わっている可能性があるわね。
♣️もしかして、空を見た記憶を消すための薬……?
♦️真相はわからない。でも、空を見た生徒を急いで保健室へ連れて行こうとした理由を考えると……私なら、絶対に逃げ出す方法を考えるわ!



