世にも奇妙な買取屋

 祖父が営んでいた小さな洋食屋を、私はひとりで引き継いだ。

 店の看板メニューは『奇跡のビーフシチュー』。

 スプーンを入れただけでほろりと崩れる肉は絶品と評判で、その味を求めて県外から通う常連客も少なくなかった。

『この味だけは、絶対に絶やすな』

 祖父は亡くなる直前、一冊のレシピ帳を私に託した。

 作り方は驚くほど細かく書かれていて、火加減や煮込み時間、香辛料の分量まで完璧だった。

 ただ、一か所だけ意味のわからない一文がある。

【肉だけは、自分で用意すること】

 肉屋に頼るな、という意味だろうか。

 私は深く考えず、評判のいい和牛を仕入れて作ってみた。

 しかし、味はまるで別物だった。

「違うなあ」
「昔の感動がない」
「この店のビーフシチューは、こんな味じゃなかった」

 常連客は口をそろえて首を横に振る。

 牛肉の産地を変えても、部位を変えても、結果は同じ。

 店を閉めることまで考え始めた頃だった。

 厨房の床下から、隠し部屋のような空間を見つけた。

 そこには古びた業務用冷凍庫が一台置かれている。

 中には、真空パックされた肉がぎっしり詰まっていた。

 袋には日付が書かれているだけで、産地も種類も書かれていない。

 祖父が隠していた最高級の牛肉だと思い、それを使ってビーフシチューを仕込んだ。

 鍋から立ち上る香りを嗅いだ瞬間、私は確信した。

 これだ……!

 常連客も一口食べるなり目を見開く。

「そう、この味だ!」
「帰ってきた……奇跡のビーフシチューが!」

 店は以前にも増して繁盛した。

 しかし数週間後、保健所の調査とは別に警察が店へやって来た。

「数十年前に起きた失踪事件について、お話をうかがいたいのですが」

 祖父の家を解体した際、庭から複数の白骨遺体が見つかったという。

 私は事情聴取を受け、念のためという理由で店の食材や調理器具まで押収された。

 どうして、おじいちゃんちに骨が……。

 数日後、警察から一本の電話が入った。

「冷凍庫に残っていた肉を鑑定した結果が出ました。……あれは牛ではありません」

「え、どういうことですか?」

「遺体のDNAと一致したんです」

 私は、頭が真っ白になった。

【肉だけは、自分で用意すること】

 今になって、その意味だけが理解できた。



〈解説〉

♦️語り手の祖父が大事にしていた『幻のビーフシチュー』。その味の秘密は、隠し味でも特別なスパイスでもなく、〝肉そのもの〟だったのね!

♣️ということは、その材料を何十年も冷凍保存しながら使い続けていたってこと?

♦️祖父の庭から見つかった骨は、ひとつじゃない。肉がなくなったら、そのたびに自分で調達していたのかも?

♣️でも、語り手はその肉を使ってお客さんに料理を出しちゃったね。

♦️なにも知らないとはいえ、お客さんも●肉を食べさせられていたなんて……。

美味しさの秘密がわかった瞬間に、ゾッとするビーフシチューは他にないかもしれないわ!