ある日、僕のもとへ一通の手紙が届いた。
差出人の名前はなく、中には、短い言葉だけが綴られている。
【今日も気をつけて】
最初は、ただ気味が悪かった。
でも次の日にも、ポストに白い手紙が入っていた。
【黄色信号でも走らない】
三日目は、
【川で遊ばないこと】
四日目は、
【知らない人についていかない】
どれも手紙というより、注意だった。
「ねえ、母さん。この手紙、誰のイタズラだと思う?」
「イタズラって?」
「ほら、ここに変なことが書いてあるでしょ?」
「白紙じゃない。なにも書いてないわよ?」
「えっ……」
どうやら文字は、僕にしか見えていないらしい。
そして、五日目の朝。
【今日はいつもより十分早く家を出て】
そんな内容の手紙が入っていた。
理由は書いていなかったけれど、なんとなくそのとおりにした。
すると、いつも乗るバスが交差点で車とぶつかってしまった。
怪我人も出ているらしく、ニュースにもなった。
もし、いつもどおりに乗っていたら……。
六日目。
【学校の階段を走らない】
そんな注意を守ってどんなに急いでいても絶対に走らないようにした。
今日の階段は滑りやすくなっていたみたいで、友達が転んで骨を折った。
もし走っていたら、骨折したのは自分だったかもしれない。
そうして七日目。
手紙の内容は、やっぱり一行だけだけだった。
【大丈夫。もう安心だ】
その日を最後に、不思議な手紙は二度と届かなくなった。
「ただいま」
家に帰ると、母さんが古いアルバムを整理していて、そこには知らないおじさんが写っていた。
「この人、誰?」
「あなたのおじいちゃんよ」
どうやら僕が生まれる前に亡くなってしまったらしい。
「おじいちゃんって、どんな人だったの?」
「手紙を書くのがすごく好きだったわ。ほら、写真にも写っているでしょう?」
机に向かうおじいちゃんの手元には、真っ白な便箋が積まれている。
それは、僕に届いていた手紙とよく似ていた。
〈解説〉
♦️語り手のもとへ届いた不思議な手紙。書かれていたのは、どれも危険を避けるための忠告ばかり。
まるで、この先に起こる出来事を知っているかのような内容だったわね。
♣️バス事故に、階段からの転倒……。
もしかしたら語り手にとってこの一週間は、人生で一番危ない期間だったんじゃない?
♦️そうかもね。おじいちゃんとは一度も会うことはできなかった語り手だけど、おじいちゃんは今でも近くで大切な孫を見守り続けているのかもしれないわ!



