再び目を開けたのは、心地よい風と、若葉と湿った土の香りに誘われたからだった。
目の前には、先が見えないほどの花畑が広がっている。
ピンクに黄色。白に薄紫。突然、飛び込んで来た眩暈がするほど鮮明な色彩に眩しくて目を細める。空を見上げれば、雲一つない青空が広がっていた。
ああ、綺麗だな。そう思った次の瞬間、ここが天国であればいいなと思った。
でも、おかしい。私は自ら命を絶った。そんな人間が、天国になんて行けるはずがない。首を捻ったと同時に、息苦しさを感じて顔を顰める。
最初は気のせいかと思ったけれど、どれだけ大きく口を開けて息を吸っても、肺に届くことはない。
やっぱり、そうか。乾いた笑いが込み上げてくる。
これは神様からの罰なんだ。いっそ一思いに地獄に突き落とせばいいものの、一瞬天国を見せてから地獄に落とすなんて、なんてえげつない。
酸欠で視界が歪む。意識を繋ぎ止めることは、もう限界だ。きっと次に目が覚めることがあれば、今度こそ間違いなく地獄の景色が広がっているのだろう。
そんなことを考えていたら、遠くから二つの人影が現れた。
地獄の番人は犬のはず。なら彼らは、天使?それとも悪魔?
脂汗がにじみ続けるような苦痛に喘ぐ私にとったらどうでもいいことだったが、二つの影はこちらに近付いて来る。ゆっくりと、確実に。
でも地中に埋められたような苦しさに耐え切れずに倒れ込んだ私に気付いた途端、ものすごい早さでこちらに向かってきた。
「────!?」
男の一人が何かを叫んでいるが、私はそれを言葉として拾うことはできなかった。
肘を付いて起き上がることすらできない。ぜいぜいと肺に届かない無駄な呼吸をしながら、すぐ傍に来た男達を仰ぎ見ることしかできない。
青空を背にして私を見下ろすその一人は、燃えるような朱色の髪に金色の瞳を持っていた。
私の身体全てが影で覆われるほどの厳つい体躯。目つきは良くいえば鋭く、悪くいえば鋭利な刃物のようだ。
もう一人は栗色の髪に水色の瞳。私を見下ろす彼は心配そうに眉を下げ、憂わしげな表情を浮かべている。
二人とも軍人の制服のような揃いの白い詰襟の服装だった。ただ朱色の髪の男の方が、地位が上なのだろう。袖口や襟元には濃紺の刺繍がしていて、少し動くたびに肩の装飾がしゃらりと音を立てる。
「──────?」
朱色の髪の男が再び首を傾げて私に問いかけるが、虚ろな目で見つめることしかできない。
そんな私に朱色の髪の男は、突然、膝を付いたかと思えば、両腕を伸ばして私を抱え込んだ。そして強引に唇を合わせて、瀕死の私の口内に舌をねじ込んできた。
異物が口の中に入る気持ち悪い感触と、執拗に動き回る舌の動きに鳥肌が立つ。
私を抱えこむ逞しい腕から逃れようと、彼の胸に手を押し当てて必死にもがくけれど、朱色の髪の男は更に力を籠める。
そして散々私の口の中で暴れた後、唇を離して淡々とこう言った。
「これで、息はできるだろう?」
そう言われてやっと、自分が呼吸をできていることに気づいた。
おかけで、頭上から響く彼らの声を鮮明に聞きとることができるようになった。
「間に合うか?」
「さあ、どうでしょう。もし仮に間に合っても、ぎりぎりでしょうね」
「………やってみるしかない。俺が行く」
「オッケー、先輩。じゃ、僕はアシストですね」
「余分なことはするな。お前は、周辺警護でもしておけ」
「はーい。了解でーす」
的を得ない話に、何の話をしているのだろうと、純粋な疑問を持つ。
それが私にとって最初の悪夢になるなんて、その時は想像すらできなかった。
目の前には、先が見えないほどの花畑が広がっている。
ピンクに黄色。白に薄紫。突然、飛び込んで来た眩暈がするほど鮮明な色彩に眩しくて目を細める。空を見上げれば、雲一つない青空が広がっていた。
ああ、綺麗だな。そう思った次の瞬間、ここが天国であればいいなと思った。
でも、おかしい。私は自ら命を絶った。そんな人間が、天国になんて行けるはずがない。首を捻ったと同時に、息苦しさを感じて顔を顰める。
最初は気のせいかと思ったけれど、どれだけ大きく口を開けて息を吸っても、肺に届くことはない。
やっぱり、そうか。乾いた笑いが込み上げてくる。
これは神様からの罰なんだ。いっそ一思いに地獄に突き落とせばいいものの、一瞬天国を見せてから地獄に落とすなんて、なんてえげつない。
酸欠で視界が歪む。意識を繋ぎ止めることは、もう限界だ。きっと次に目が覚めることがあれば、今度こそ間違いなく地獄の景色が広がっているのだろう。
そんなことを考えていたら、遠くから二つの人影が現れた。
地獄の番人は犬のはず。なら彼らは、天使?それとも悪魔?
脂汗がにじみ続けるような苦痛に喘ぐ私にとったらどうでもいいことだったが、二つの影はこちらに近付いて来る。ゆっくりと、確実に。
でも地中に埋められたような苦しさに耐え切れずに倒れ込んだ私に気付いた途端、ものすごい早さでこちらに向かってきた。
「────!?」
男の一人が何かを叫んでいるが、私はそれを言葉として拾うことはできなかった。
肘を付いて起き上がることすらできない。ぜいぜいと肺に届かない無駄な呼吸をしながら、すぐ傍に来た男達を仰ぎ見ることしかできない。
青空を背にして私を見下ろすその一人は、燃えるような朱色の髪に金色の瞳を持っていた。
私の身体全てが影で覆われるほどの厳つい体躯。目つきは良くいえば鋭く、悪くいえば鋭利な刃物のようだ。
もう一人は栗色の髪に水色の瞳。私を見下ろす彼は心配そうに眉を下げ、憂わしげな表情を浮かべている。
二人とも軍人の制服のような揃いの白い詰襟の服装だった。ただ朱色の髪の男の方が、地位が上なのだろう。袖口や襟元には濃紺の刺繍がしていて、少し動くたびに肩の装飾がしゃらりと音を立てる。
「──────?」
朱色の髪の男が再び首を傾げて私に問いかけるが、虚ろな目で見つめることしかできない。
そんな私に朱色の髪の男は、突然、膝を付いたかと思えば、両腕を伸ばして私を抱え込んだ。そして強引に唇を合わせて、瀕死の私の口内に舌をねじ込んできた。
異物が口の中に入る気持ち悪い感触と、執拗に動き回る舌の動きに鳥肌が立つ。
私を抱えこむ逞しい腕から逃れようと、彼の胸に手を押し当てて必死にもがくけれど、朱色の髪の男は更に力を籠める。
そして散々私の口の中で暴れた後、唇を離して淡々とこう言った。
「これで、息はできるだろう?」
そう言われてやっと、自分が呼吸をできていることに気づいた。
おかけで、頭上から響く彼らの声を鮮明に聞きとることができるようになった。
「間に合うか?」
「さあ、どうでしょう。もし仮に間に合っても、ぎりぎりでしょうね」
「………やってみるしかない。俺が行く」
「オッケー、先輩。じゃ、僕はアシストですね」
「余分なことはするな。お前は、周辺警護でもしておけ」
「はーい。了解でーす」
的を得ない話に、何の話をしているのだろうと、純粋な疑問を持つ。
それが私にとって最初の悪夢になるなんて、その時は想像すらできなかった。
