監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

 時空の監視者ことバルドゥールは、燃えるような朱色の髪に金色の瞳を持つ、恐ろしいほど美しい容姿の持ち主だ。

 でも短く刈り上げた髪と、褐色の肌色に厳つい巨体は、私の目には悍ましい魔物のようにしか見えない。

 そんな朱色の魔物は、部屋の隅で夜着の胸元をきつくかき合わせている私の姿を目にした途端、静かに口を開いた。

「寝ろ」

 低い声が、しんと静まり返った部屋に響き渡る。

 睡眠を取れというこということではなく、ベッドに横たわれと命じているのはわかるが、素直に言うことを聞いてしまえば、その先は見えている。

 だから絶対にベッドには行きたくはない。

「……嫌です」

 震える声で拒めば、彼は眉間に皺を刻んだ。

「手こずらせるな」

 荒々しい足取りで私の元へ来たバルドゥールは、乱暴な手つきで私の腕を掴んだ。

 あっと思った時にはもう遅かった。気付けば私はベッドに転がされていて、両手は頭上で拘束されてしまっていた。

 バルドゥールの身体は、私より遥かに大きい。そんな彼の手は当然ながら大きく、私の両手首など片手で軽々と掴める。

「お願いです。...............触らないで」

 なんとか拘束されている手を外そうとするが、軽く掴まれているだけなのに、ぴくりとも動かすことができない。

 もがけばもがくほど、彼の手に力が篭る。次第に強くなるバルドゥールの力は、私の手首に食い込み、強い痛みを感じる。

「っ.........痛い」
「なら、動くな」

 そう言われても、はいそうですかなどと頷けるわけがない。

 冗談じゃないと再びもがくが、それは間違いだった。私の行為はバルドゥールの苛立ちを助長させるだけだった。

 彼は私を忌ま忌ましそうに睨みつけ、乱暴に夜着の裾をたくし上げる。

 慌てて足を閉じようとしたけれど、もう遅かった。彼は既に私の足の間に自分の足を滑り込ませていた。そして、なんの躊躇も無く、私の身体に触れ始めた。

「……ひっ」

 引き攣るような痛みで、涙が滲むけれど、バルドゥールはお構いなく手を動かす。けれどしばらくして、ちっと舌打ちをした。

「今日もか」

 どれだけ触れても潤わない私に苛立ったバルドゥールは、私のそこに潤滑油を塗り始める。

「嫌っ、気持ち悪い」

 悲鳴を上げながら身体を捩っても、得体の知れないものが自分の意志を無視して体内に入り込む。

 それは想像以上に、鳥肌が立つ。けれど、男であるバルドゥールにはわからないことなのだろう。

「お前がそうさせているんだ。これが嫌なら、さっさと俺を受け入れるようになれ」

 自業自得と言われ、言葉を失う。

 それはつまり、この人に媚びを売れとでも言いたいのだろうか?嫌々私を抱いている彼に、私はありがとうとでも言えばいいのか?

 冗談じゃない。嫌ならこんなことしなければいい。

 あらん限りの憎悪を込めて睨みつけても、彼の表情は全く動かない。それどころか、私の膝裏に手をかけ足を大きく広げた。

 最も辛い時間が来ようとしている。私の唇が恐怖で奮える。けれどバルドゥールは、そんな私を無表情に見下ろしながら、行為を始めてしまった。

「痛っ……!」

 慣らされていないそこは、きつく拒んでいるのに、バルドゥールは力任せに押し入ってくる。

 ベッドの上でおもちゃのように、揺らされる身体。腰をきつく抱かれ、何度も何度も、彼のものを叩きつけられる。

 それは貪欲に飽く事無く続けられ、痛みと激しさで意識が朦朧とした頃、やっとバルドゥールは欲望を吐き出した。

 バルドゥールが身体から離れた瞬間、私は露わになった自分の身体を見られたくなくて、胸の辺りまでたくし上げられた夜着を慌てて引き戻す。

 そうしながら、いつも思う。嫌々するなら、やらなければいいのに。

 それと同時に、何事もなかったかのように、身なりを整える彼が憎くて憎くてたまらない。

 きっと私が睨んでいることぐらいバルドゥールは気付いているだろう。けれど、私に睨まれたところで、彼の感情は動くことはない。

 高ぶる感情を抑えきれず、唇を噛み締めても涙がこぼれ落ちる。

 でも絶対に泣き声など聞かせてなるものか。これは私のちっぽけな矜持だと分かっている。私の泣き顔を見た途端、バルドゥールがせせら笑うのは容易に想像ができるから。

 一刻も早くバルドゥールが部屋から出て行くよう必死に祈る。二度と来るなと心の底から願う。けれど、それは私には過ぎた願いだったのだろう。

「つまらん意地を張るな」

 私の心の内を読んだかのように、バルドゥールがそう言い放つ。静かで抑揚のないその声は、私の胸をえぐり、消えない傷を付ける。

 ゆるゆると顔を上げ、声のした方を向けば、扉の前で私を見つめるバルドゥールがいた。

 彼の金色の瞳からは、何の感情も読み取れなかった。蝋燭の灯が反射して、揺らめいているだけ。

 しばらく互いの視線は交差したが、彼は結局、何も言わないまま。静かに部屋を出て行った。

 無機質なドアの締まる音が響けば、この部屋は静寂に包まれる。

 自分の嗚咽だけが響き渡り、虚しさだけが心の中を満たしていく。

 そんな中、私はいつも自分に語りかける。これはきっと、神様が自ら命を絶とうとした私に与えた罰なんだ。仕方ないことなのだ、と。

 そう自分に言い聞かせても、私の涙は止まることがなかった。

 かつて幸せと不幸は同じ分量だという言葉を耳にしたことがある。

 でもそれは違う。そう思える人は、間違いなく幸せの分量が多い人だ。そして私は、幸せと不幸は同じ分量だと思えない、そういう人種だった。