ピンチの時にさっそうと現れたヒーローは、見た目以外は高スペック男子でした。

 それは遠く海を越えた先にある大陸だった。

 魔法で風を起こして進む早船をもってしても順調に行って二か月以上かかる為、一応航路は通っているがほとんど交流はない、未知の大陸である。

 アメリアに限らず、ほとんどの人間が、リーン大陸に足を踏み入れる事もなく一生を終えるであろう、そんな場所。

「…………それは、本当に大変だったのね」
 ポツリと呟かれた言葉はあまりにも重い。

 言葉すらろくに通じないであろう見知らぬ土地に突然飛ばされたのだ。
 事故というからには、まともな装備も持っていなかっただろう。

 さらに言えば、この容姿である。
 他大陸とは言え、美醜感覚がそう変わっているとも思えない。他者との交流を図るだけでも一苦労であったはずだ。

 どれほどの苦労があったかは想像するしかできないが、目の前にいる青年がここにいることが、もはや1つの奇跡であるというのは分かった。

 周囲の同情に満ちた視線に、ウィズは苦笑とともに肩をすくめた。

「幸い身を守る術は持っていましたし、魔力も人並みよりはありましたから。傭兵のようなことをして金を稼ぎ、船の動力源の魔術師として雇ってもらう事もできました。苦労しなかったとは言いませんが、得難い経験でした」

 さらりと何でもないことのように語り、手にしたカップを口に持っていくウィズには、身1つで数多の困難を乗り越えてきた強者の雰囲気が滲み出ていた。

「そうなのね。それにしても、リーン大陸、かぁ。どんな所なの?お父様ですら、殆ど情報を得られなかったみたいで、書斎にもろくな情報がなかったの」
 やはり、というか、1番最初に立ち直ったのはアメリアであり、未知の大陸を旅して来たというウィズに興味津々で詰め寄った。

「……さほど、こちらと違いはありませんでしたよ?しいて言えば、人よりも獣人の方が数が多かったくらいでしょうか?おかげで、こちらよりは幾分私に対する当たりも弱かったので助かりましたが」

 過去に想いを馳せるように、ウィズの顔が少し上を向いた。

 ローブの奥で、僅かに目を細め、記憶を探る。

 耳や手など一部だけに獣の要素を持つものから、獣の姿で二足歩行する者まで。
 さまざまな姿形を持つ獣人たちが闊歩する国では、ウィズの容姿もただの個性と捉えられることの方が多かった。

 まあ、醜いことには変わりがないので、人には忌避されたし、獣人にも気の毒がられたりからかわれたりはしたのだが。
 少なくとも、船に雇ってもらうことができる程度には受け入れられていた。

 自分たちの大陸からなら、正規の料金以上を払っても、船に乗せてもらう事すらできなかったのではないかとウィズは苦笑した。

「そうなのね。この大陸にも獣人はいるけれど少数だし、基本トロン国から出てこないから、私は会った事がないの。人とはどう違うの?」
 好奇心に瞳を輝かせてアメリアは話をねだった。

「そうですね。私もリーン大陸でしか獣人とかかわったことはなかったですが、基本おおざっぱで強者が尊ばれる風潮があります。おかげで助かりましたが、ある程度腕があることが知られると、顔を見るたびに勝負を仕掛けられるのには多少辟易しました」

 苦笑する様子から、先ほど垣間見せた強さを、他大陸でもいかんなく発揮してきたのであろうことがうかがえた。
 もっとも、その強さがあったから、ウィズは今ここにいるのだ。

「人気者だったのね」
 その意味を分かっているのかいないのか、アメリアがのんきにそう言って笑うと、カップの中身を飲み干して小さくあくびをした。