ピンチの時にさっそうと現れたヒーローは、見た目以外は高スペック男子でした。

 あえて大きな道を避けて薄暗い森の中を進んだのは、自分の姿に対して向けられる他者の視線が煩わしかったからだ。

 魔物が住む森ではあったが、男の実力を持ってすれば脅威など感じなかった。そんなものより、人の方が余程恐ろしいと、この2年ほどで身にしみていたのだ。

 何をするわけでも無い。
 ただそこにいるだけで、人は悲鳴をあげ逃げるか、嫌悪をあらわに睨みつけるかのどちらかであった。

 中には、あからさまに石を投げ剣を振るって追い払おうとする輩すらいたのだ。
 たとえ命を助けても、相手の必要なものを無償で与えたとしても、それは変わらなかった。

 全ては、醜いこの見た目の為に。

 もちろん動じない剛の者もいるにはいたが、その多くは人生の酸いも甘いも噛み締めた年寄りや、常に命の危険と隣り合わせの傭兵であった。

 つまり、()()()人々には到底受け入れられない。

 幾度も同じ事を繰り返せば、さすがに男も諦めがついた。
 受け入れられないなら、隠せばいい。

 フードを深くかぶり、できるだけ人を避けて、1人で黙々と目的地へめがけ歩き続けた2年であった。

 そんな中、魔物の集団に襲われる一行を見つけたのは偶然だった。

 獣道をかき分けて進む中、剣戟の音と魔物の声が聞こえたのだ。
 素通りするには、体の髄まで染み込んだ騎士道が邪魔をする。

 諦めのため息を1つつくと、男は剣を抜いて音の方へと走り出した。

 さっさと済ませてさっさと立ち去ろう。
 それが、苦い経験を積んだ真面目な男の、唯一学んだ処世術であった。

 しかし、その先で。
 運命は思いがけない出会いを用意していた。


 助けたのが公爵家の娘が乗る馬車であり、見た目にもたおやかな少女が「礼を」と降りてきたとき、いたずらな風に隠したものを暴かれてしまった。

 悲鳴をあげて気を失うかと思われた少女は、目をそらす事なく堂々と失礼な持論を言い放ってみせた。

 しかも、嫌悪も邪気も何もなく。
 心の底から「そう」思っているのだと分かる声で。
 
 そんな反応をされたのは、この2年で初めてで。

 気がつけば、久しぶりに心の底から笑っていた。

 自分の斬り伏せた魔物の、血臭の濃く残るこの場で。
 まさか、こんなに湧き立つような気持ちになるとは思いもしなかった男は、込み上げてくる笑いを抑えることができず。

 失礼な事を散々言われたはずなのに、楽しそうに腹を抱えて笑う男に呆気にとられたような視線が多数向けられる中、それでも男はどうしても止めることができずしばらく笑い続けたのだった。



「あら、笑い声だけ聞くと意外と若いのね?」
 そんな失礼なつぶやきは、幸か不幸か誰の耳にも届かなかった。