息を飲んだのは、多分その場にいた全員だった。
不幸にも騎士の礼をとるために両手を封じていたことが仇になり、慌てたように男が再びフードを被った時には、その場にいた人間はその容貌を目撃してしまっていた。
そして、一瞬であったにもかかわらず、その容貌は目撃した全ての者に強烈な印象を与えた。
ギョロリとした三白眼に太い眉。顔の真ん中でデンと主張する大きな鼻は潰れて横に広がっていた。
さらに厚みのある大きな唇は、引き結ばれてへの字に歪み、恐ろしさを強調している。
肌は浅黒く、たくさんのイボやホクロがまるでガマガエルのような不気味さを男に与えていた。
その顔を細かく縮れた黒髪が縁取る様は、見るものに生理的な嫌悪感を与えずにはいられない。
気の弱い婦人なら、その顔を見ただけで気を失うものすらいるのではないだろうか。
醜いと言われているトロールですら男の前では可愛く見えるかもしれない。
「……………見苦しいものをお見せしました」
反射的に剣の柄に手を置いてしまった隊長は、フードをかぶりなおした男の言葉に慌てて手を離した。
確かに、まるで魔物もかくやと思うほどの顔ではあったが、命の恩人に対しての態度ではない。
そう、ただ醜いだけで………。
それはありえないくらい、ちょっと信じられないレベルで……多分普通の感性の持ち主だったら世を儚んでいるレベルで、醜いだけで………。
(あぁ、頑なにフード取らないわけだよな。アレは無理だ………)
かなり失礼な事を考えつつ、どう声をかけようか迷う気まずい空気をぶち破ったのは、なんと主人の少女であった。
やんごとない姫君であるはずの少女は、パンっと両手を合わすと、ニコリと微笑んで見せたのだ。
「すごいわね、貴方。そこまで色々揃っていたらある意味奇跡だわ。貴方のように醜い容貌を私、初めて見たわ」
あっけらかんと。
ひどい言葉のはずなのに、ほんの僅かの邪気も含まれないその言葉に、先ほどとは別の意味で時が止まる。
「姫さまっ!!?」
先ほどよりも余程強い口調で侍女が声を上げたが、アメリアは少しうるさそうに僅かに眉をひそめただけだった。
「心配しなくても、大丈夫よ。彼は立派な騎士だわ。見知らぬ一行の危機に我が身を顧みず飛び込むのだから。確かに、悪鬼もかくやと言わんばかりの恐ろしい容姿と強さだけれど」
持ち上げているのか落としているのか。
失礼極まりない言葉に、侍女はついに絶句した。
「……………実際に魔の物が、油断させるために助けたのかも知れないぞ?」
沈黙を破ったのは、ローブ男の静かな声だった。
しかし、その低い声の中に面白がっているような色が潜んでいる事を、少女の敏感さで気づいたアメリアは、にっこりと笑って見せた。
「あら。それこそ無いわね。人のふりをできるほどの力のある魔物は震えるほどに美しいと言われているもの。油断させるにしても、せめて人並みの容姿に化けるでしょう?」
小首を傾げてまるで出来の悪い生徒に言い聞かせるように語るアメリア。
「……………姫さまぁ〜〜」
自分の主人のあまりにも酷い物言いに、ついに侍女が泣き出しそうな情けない声を上げた時、その場に弾けるような笑い声が響いた。
不幸にも騎士の礼をとるために両手を封じていたことが仇になり、慌てたように男が再びフードを被った時には、その場にいた人間はその容貌を目撃してしまっていた。
そして、一瞬であったにもかかわらず、その容貌は目撃した全ての者に強烈な印象を与えた。
ギョロリとした三白眼に太い眉。顔の真ん中でデンと主張する大きな鼻は潰れて横に広がっていた。
さらに厚みのある大きな唇は、引き結ばれてへの字に歪み、恐ろしさを強調している。
肌は浅黒く、たくさんのイボやホクロがまるでガマガエルのような不気味さを男に与えていた。
その顔を細かく縮れた黒髪が縁取る様は、見るものに生理的な嫌悪感を与えずにはいられない。
気の弱い婦人なら、その顔を見ただけで気を失うものすらいるのではないだろうか。
醜いと言われているトロールですら男の前では可愛く見えるかもしれない。
「……………見苦しいものをお見せしました」
反射的に剣の柄に手を置いてしまった隊長は、フードをかぶりなおした男の言葉に慌てて手を離した。
確かに、まるで魔物もかくやと思うほどの顔ではあったが、命の恩人に対しての態度ではない。
そう、ただ醜いだけで………。
それはありえないくらい、ちょっと信じられないレベルで……多分普通の感性の持ち主だったら世を儚んでいるレベルで、醜いだけで………。
(あぁ、頑なにフード取らないわけだよな。アレは無理だ………)
かなり失礼な事を考えつつ、どう声をかけようか迷う気まずい空気をぶち破ったのは、なんと主人の少女であった。
やんごとない姫君であるはずの少女は、パンっと両手を合わすと、ニコリと微笑んで見せたのだ。
「すごいわね、貴方。そこまで色々揃っていたらある意味奇跡だわ。貴方のように醜い容貌を私、初めて見たわ」
あっけらかんと。
ひどい言葉のはずなのに、ほんの僅かの邪気も含まれないその言葉に、先ほどとは別の意味で時が止まる。
「姫さまっ!!?」
先ほどよりも余程強い口調で侍女が声を上げたが、アメリアは少しうるさそうに僅かに眉をひそめただけだった。
「心配しなくても、大丈夫よ。彼は立派な騎士だわ。見知らぬ一行の危機に我が身を顧みず飛び込むのだから。確かに、悪鬼もかくやと言わんばかりの恐ろしい容姿と強さだけれど」
持ち上げているのか落としているのか。
失礼極まりない言葉に、侍女はついに絶句した。
「……………実際に魔の物が、油断させるために助けたのかも知れないぞ?」
沈黙を破ったのは、ローブ男の静かな声だった。
しかし、その低い声の中に面白がっているような色が潜んでいる事を、少女の敏感さで気づいたアメリアは、にっこりと笑って見せた。
「あら。それこそ無いわね。人のふりをできるほどの力のある魔物は震えるほどに美しいと言われているもの。油断させるにしても、せめて人並みの容姿に化けるでしょう?」
小首を傾げてまるで出来の悪い生徒に言い聞かせるように語るアメリア。
「……………姫さまぁ〜〜」
自分の主人のあまりにも酷い物言いに、ついに侍女が泣き出しそうな情けない声を上げた時、その場に弾けるような笑い声が響いた。

