ピンチの時にさっそうと現れたヒーローは、見た目以外は高スペック男子でした。

 男の邪魔にならぬよう素早く馬車の方へ体を寄せ、あたりを警戒しながらも、その美麗な剣技に見とれていた護衛達の口からワッと歓声が上がった。

 それは、脅威が去ったことへの喜びと男への賛辞だった。

 魔物の体に突き刺したままになっていた己の剣を回収していた男は、その声に驚いたようにビクリと体を震わせた。

 それから、少し迷ったような仕草を見せた後、自身の剣を鞘になおし、ゆっくりとした足取りで馬車の方へと近づいてきた。
 そして、手にしたままの地に落ちていた剣を護衛達に向かって差し出す。

「すまない、勝手に拝借した」
 差し出された剣を受け取ったのは、中年の騎士だった。

「いや。あなたの役に立てて、これの持ち主も本望だっただろう」

 静かに伏せられた瞳に滲む悲しみに、本来の持ち主の行く末を知った男が、静かに葬送の印を指で切った。
 その動きは、剣を振るっていた時の荒々しさとは似ても似つかなぬ優美なものだった。

 護衛の騎士は、不思議な気持ちで目の前の男を見つめた。

 人相がわからないほど目深にかぶった黒いローブは、薄汚れてボロボロで年季を感じさせた。
 持っている背負い袋も同じく、元の素材がわからないほど薄汚れている。

 扱っていた剣も、よく見ればそこらの鍛冶屋で手に入れられる名もなき一品のようで、多分、先ほど返された剣の方がよほど高価だろう。

 あの、恐ろしいまでの切れ味は、一重に男の高い技量によるものだ。

 魔物の住む森を1人で旅する程の技量の持ち主。

 それだけ見れば、傭兵か何かかとも思えるが、訛りのない綺麗な発音や美しいとすら感じさせる洗練された剣筋、そして、さりげない所作は高い教養を感じさせた。

 どうにも、男の正体がよく分からない。
 しかし、命の危機を救われたのは確かだ。

「助太刀、心より感謝する。おかげで我が命だけでなく、主人を守ることができた」

 護衛の騎士をまとめる役割を担っていた男は、素直に礼を口にした。
 そして、次の街まで共に行ってくれないかと交渉する。

「恥ずかしい話だが、今回の襲撃により多くのものが負傷し、主人を守るには心許ない」
 頭を下げる騎士に、男が迷うように沈黙を返した時、馬車の扉が開く音がした。