ピンチの時にさっそうと現れたヒーローは、見た目以外は高スペック男子でした。

「もう寝るわね。お邪魔しました」
 元気そうに見えても、魔物に襲われ、森の中の荒れた道を馬車で走り抜けた疲労は少女の中に確実に蓄積されていた。

 小さく手を振って馬車へと戻っていくアメリアの背中に、ウィズが小さく何かを呟いた。

「今のは?」
 隣にいたランバードが異国の響きを持つ言葉に小さく首を傾げる。

「悪夢よけの呪いだ。物おじしないお嬢様のようだが、命のやり取りを間近に見たんだ。夢にうなされても不思議はない。……まあ、気やすめだがな」

 肩をすくめて見せると、ウィズも手にしたカップの中身を飲み干した。

「俺も休ませてもらう。寝ずの番が必要なようなら、声をかけてくれてかまわない」
 そういうと、ウィズは焚火の当たる範囲から少し離れたところにある大木に腕を組んで背中を預けた。

 相変わらず目深にかぶったローブで顔は見えないが、そのままじっと動かなくなったウィズに、あのまま休むのだろうとランバードは小さく吐息をついた。

「……不思議な御仁ですね」
 隣で焚き木に小枝をくべながら、副官を任せている青年が小さくつぶやいた。

 ランバードはそれに無言でうなずくことで同意を示す。

 仕える主人の娘二人を神聖シシュー国へと送ることが、今回のランバードの仕事であった。
 自国からシシュー国までは馬車の通れる街道でつながれているため、そう難しい道程ではないはずだったのに、ふたを開けてみればトラブル続きであった。

 それでも、仲間と力を合わせどうにか乗り越えてきて、最後の難所である森までたどり着いたのだが、そこで今までで最大の災難に襲われたのだ。

 最近、魔物の活性化が多く報告されていたが、それも人里離れた場所が主であった。
 少なくとも、森の中を通るとはいえ人の通行が多い道に、あれほどの大物が出現するなど今までになかったことである。

 森の奥から巨大なクマの姿をした魔物がうなり声と共に飛び出してきたときには、正直死を覚悟した。

 せめて大切な預かりものである二人だけでも逃がそうとしたのだが、巨大な魔物におびえた馬たちはパニックで動こうとしない。
 そうしているうちに、さらに現れた狼型の魔物たちに囲まれてしまったのだ。