ピンチの時にさっそうと現れたヒーローは、見た目以外は高スペック男子でした。

 男の振るう剣は、まるでハリボテのように軽々と魔物の体を切り裂いた。





 それは突然のことだった。

 隣国に行く途中にある安全だと聞かされていた森の中、突然、大きな熊のような姿をした魔物に襲われたのだ。
 身の丈は3メートルを超そうという黒い肢体に禍々しい赤い瞳。丸太のように太い腕を振り回せば、人など簡単に吹き飛んだ。
 さらに、それに従うように狼のような魔物まで複数姿を現した時、人々は絶望に瞳を染めるしか無かった。

 数多く引き連れていたはずの護衛も歯が立たず、あるものは紅を撒き散らし地に伏し、あるものは魔力を絞り尽くし昏倒していた。
 せめて主人を逃がす時間だけでも作ろうと、我が身を盾に虚しい抵抗をする護衛達を、馬車の中で震える妹を抱きしめた姉はジッと見ていた。

 彼らが倒れた時、自分たちの命も終わる。

 それは、何よりも明確な現実であった。
 その事は、震えがくるほど恐ろしい。
 しかし、今まさにその命を散らしながらも自分たちを守ろうとしてくれる護衛達の行く末を見守ることが、その忠誠に対し自分にできる最後の礼のような気がしていた。

 ゆえに、荒事など無縁の少女は恐ろしさに涙の膜を貼りながらも、ジッと窓から外を見つめていたのだ。
 旅の途中、暇潰しにと色々な話をしてくれた年老いた魔法使いが地に臥す様も、仲良くなったまだ見習い騎士の少年までが剣を取り体を紅に染めていく様も。

(神様………。どうかお救いください)

 届くことのない何度目かの祈りの言葉を少女が呟いた時。
 突如、木々の間から黒い影が飛び出してきた。
 そして、まさに護衛の1人に食いつこうとした狼の魔物を一刀の元に斬り伏せたのだ。