あなたを愛しているから



「─まぁ、貸しにされるかもしれんが、確かに蒼月(ソウゲツ)はこれを理由に戦争を仕掛けては来ないだろうから、いいけどな」

そんなしょうもない理由で、戦争をするようなやつじゃない。お忍びでよく隣国へきていたあいつは、我が国と同じく、使えない父王や異母兄達に愛想を尽かし、玉座を略奪した王だ。

似たような状況で違うことといえば、神狼は周囲に持ち上げられて仕方なく始めたことだったが、蒼月は己の信念に従って、国の全てをぶち壊した。

……過去では、彼は消されて、彼の愛した国はこちら側を攻めてきたけれど。

「羅々(ララ)は良い子じゃよ……?」

「そんなことは知ってるよ。でも、人間の世界はしがらみが多くて、面倒くさいってこと、琉琉はもう知ってるだろ」

羅々というのは、琉琉の双子の弟─……ふたりは双龍らしく、悠龍国の建国神話で語られる王の傍らにいた龍は、ふたりの父親に当たるらしい。

今は悠龍国のとある泉で、深い眠りについているとか。

蒼龍国と悠龍国は、元々ひとつの帝国だった。
しかし、あまりにも一国に力が集まりすぎる脅威や、広大な土地の管理の難しさなどの問題から、ふたつに別れた国である。

互いに現在は異民族や、その異民族を取り込んで広大な土地を手に入れ始めている他国の脅威に晒されており、戦争が起きる前に自国をどうにかしておきたかった蒼月の気持ちもわからなく無い。

「本来の運命を辿れば、蒼龍国は滅亡する。そして、羅々は死に、琉琉は狂い、お前達の父親が目覚める。悠龍国だけではなく、他国も含めて全てが崩壊する」

「うむ。─わらわ、片割れを失えば、力な制御ができなくなることは知らなんだ。今も眠る父は強い。じゃが、父を理解し、寄り添っていた初代は、その御霊はもうここにはおらぬ」

だからこそ、彼らの父親に不完全な状態で目覚められるのは、本当に困る。彼の本意でもないだろうし。

『再び、我が相棒が目覚める時まで、眠る』
─それが、建国神話に載っている、彼の最期の言葉だ。

「その為にはできることから片付けていきたいが……」

「少なくとも、国内に敵が多すぎる。そなたの命を狙う輩を全員、排除せねば」

「それはそうだが……」

反乱を起こした時、既に政治は混乱を極めていた。
低迷し、皇族の、父や兄、妃の機嫌によって、多くの官吏が一族郎党処刑されたり、民は飢餓に死に絶えて。

お陰で、残るのは膿ばかり。全てを取り除いたら間違いなく、人手不足にはなるが……こちら側を裏切っている人間を見逃し、好き勝手を許すのは、今の国力的にも厳しいものがあるが……後宮の1件も、放っておけば、勝手に蘇らされるかもしれない。そんな面倒は避けたい。

(あんな、湯水のように金を溶かす場所など邪魔だ)

三千の美姫が競い合い、争い合い、皇帝陛下の寵愛を争う花園。多くの宦官、女官、下女……日夜絶えぬ事件、増え続ける皇族。

皇帝となり、その無駄な場所を閉ざした時、かなり不平不満を聞いた。どう考えても、現在の悠龍国においては金の無駄でしかないあそこは、皇帝陛下の御子を育てる場所として大切だとか、まあ、言っていることは理解できるが、そうやって遊興に耽り、生み出された皇子達が国の宝と言える民を殺しているなら、存在する価値などない。

(俺に、ひとりの妃もいないから、だろうが)

本当にこの国の未来を憂い、神狼を皇帝陛下として崇め、そして、神狼の血を後世に確実に残したいから、と、訴えてくれる臣下もいる。

だが、神狼は何度も繰り返し、国の結末を見た。
─そんな未来を再現するくらいなら、自分の睡眠時間ですらも有効に使い、─……皇族の血云々関係なく、例え、自分の家系を閉ざしてでも─……優秀な人間を後継者に指名して、この命を枯らす方が有意義に感じる。