☪
「─また、お散歩に出かけたのですね」
それから一刻と少し。
呆れた顔で入ってきた、神狼の腹心に琉琉は笑いかけた。
「まあ、良いのではないか?死ぬことはできぬのだ」
「琉琉さま……それでも、なるべく大人しくしていて欲しいものです。人の子ですから」
神狼の腹心─珂怜世(カ レイセイ)。
神狼の母の侍女が産んだ、神狼の乳兄弟である。
だから、琉琉の正体も知っているし、神狼の良き理解者でもある。
側近としても有能で、最期まで、神狼を裏切らなかった。
(……いかんいかん。それを、この者は知らぬのじゃ)
神狼が話さないと言うならば、話さない。
誰も知らなくていい。これから起こりうる未来なんて。
一度過ぎ去ったものでも、現在、存在していないならば、それは元々存在しなかったものなのだから。
基本、怜世には隠し事をしないが、神狼はその話だけはしないで欲しいと、琉琉に願った。
珍しい、愛し子の願いだ。守ってあげたい。
「なら、怜世。頼みがあるのじゃ」
「なんでしょう」
「わらわがあいつの真似事をしても良い。少しの間だけ、あいつを自由してやってくれぬか」
「……」
「わらわは、あやつに幸せになって欲しいのじゃ」
それは、琉琉の本心だった。
何度も崩れ落ちる絶望に面し、それでも、一度も琉琉を憎悪することなく、運命に立ち向かう愛し子。
少しくらい、自由を与えたい。
「……私も、神狼さまには幸せになって欲しいですよ」
返事を待っていると、怜世は微笑しながら続けた。
「当たり前でしょう。……それに、琉琉さまが『わらわ』と言われる時は、それが本心だと存じています。─身代わりは必要ありませんよ。ただ、琉琉さま、見守っていてくれませんか。神狼さまを見守り、守って頂きたい」
「……良いのか」
「フフッ、琉琉さま、私は人間ですよ」
「それがどうしたのじゃ?」
「本来なら、お願いなどしなくて良いのです。命令さえすれば、私は従わざる得ません」
「じゃが、怜世は神狼の大切な存在じゃ。友人じゃ。そのような事はせぬよ?」
「はい、存じ上げております」
にっこりと笑っているが、琉琉は怜世が言っていることを理解しがたかった。
人の子は長い間見守ってきたが、時折、よく分からない行動をとるから、面白いのじゃが……。
「良いのか」
「はい。……神狼さまを、よろしくお願い致します」
怜世は、神狼同様、とても優秀である。
だから、少しの間はどうにかしてくれると思う。
「……怜世、手をお出し」
「?」
素直に右手を出してきた怜世の手首に、術をかける。
「……何かあったら、ここに触れ、わらわを呼べ」
「琉琉さまを、ですか?」
「うむ。良いな、約束ぞ」
怜世は紋様が一周刻まれた右手首を眺め、
「わかりました」
─その微笑みを背中に、琉琉は窓から飛び出した。
「─また、お散歩に出かけたのですね」
それから一刻と少し。
呆れた顔で入ってきた、神狼の腹心に琉琉は笑いかけた。
「まあ、良いのではないか?死ぬことはできぬのだ」
「琉琉さま……それでも、なるべく大人しくしていて欲しいものです。人の子ですから」
神狼の腹心─珂怜世(カ レイセイ)。
神狼の母の侍女が産んだ、神狼の乳兄弟である。
だから、琉琉の正体も知っているし、神狼の良き理解者でもある。
側近としても有能で、最期まで、神狼を裏切らなかった。
(……いかんいかん。それを、この者は知らぬのじゃ)
神狼が話さないと言うならば、話さない。
誰も知らなくていい。これから起こりうる未来なんて。
一度過ぎ去ったものでも、現在、存在していないならば、それは元々存在しなかったものなのだから。
基本、怜世には隠し事をしないが、神狼はその話だけはしないで欲しいと、琉琉に願った。
珍しい、愛し子の願いだ。守ってあげたい。
「なら、怜世。頼みがあるのじゃ」
「なんでしょう」
「わらわがあいつの真似事をしても良い。少しの間だけ、あいつを自由してやってくれぬか」
「……」
「わらわは、あやつに幸せになって欲しいのじゃ」
それは、琉琉の本心だった。
何度も崩れ落ちる絶望に面し、それでも、一度も琉琉を憎悪することなく、運命に立ち向かう愛し子。
少しくらい、自由を与えたい。
「……私も、神狼さまには幸せになって欲しいですよ」
返事を待っていると、怜世は微笑しながら続けた。
「当たり前でしょう。……それに、琉琉さまが『わらわ』と言われる時は、それが本心だと存じています。─身代わりは必要ありませんよ。ただ、琉琉さま、見守っていてくれませんか。神狼さまを見守り、守って頂きたい」
「……良いのか」
「フフッ、琉琉さま、私は人間ですよ」
「それがどうしたのじゃ?」
「本来なら、お願いなどしなくて良いのです。命令さえすれば、私は従わざる得ません」
「じゃが、怜世は神狼の大切な存在じゃ。友人じゃ。そのような事はせぬよ?」
「はい、存じ上げております」
にっこりと笑っているが、琉琉は怜世が言っていることを理解しがたかった。
人の子は長い間見守ってきたが、時折、よく分からない行動をとるから、面白いのじゃが……。
「良いのか」
「はい。……神狼さまを、よろしくお願い致します」
怜世は、神狼同様、とても優秀である。
だから、少しの間はどうにかしてくれると思う。
「……怜世、手をお出し」
「?」
素直に右手を出してきた怜世の手首に、術をかける。
「……何かあったら、ここに触れ、わらわを呼べ」
「琉琉さまを、ですか?」
「うむ。良いな、約束ぞ」
怜世は紋様が一周刻まれた右手首を眺め、
「わかりました」
─その微笑みを背中に、琉琉は窓から飛び出した。

