あなたを愛しているから




─悠龍国。
それは、反乱を終えて間もない国。

他国の侵略を未だに怯えなければならないほど弱体化した国の頂点に上り詰めた、反乱軍の長であり、先の皇帝陛下の戯れによって誕生した末の皇子・珀神狼は国のあちこちで起こる問題を前に、ため息をついた。

「─なんだ、余の加護だけじゃ不満か」

執務室、執務机に向かう神狼の背後。
窓辺に腰を掛ける、幼女はふてぶてしい態度で言った。

「そんなこと言ってないだろ」

「じゃが、ため息をついた」

「そんなことで、勝手に不満だと判断するな」

「なんじゃ……機嫌悪いな」

高い位置で黒髪をふたつに括った幼女の名は、琉琉(ルル)。
こいつと出会ったのは、幼少期。
辺境でのんびりと暮らしていた神狼の前に現れた幼い少女は、今尚も姿変わらず、神狼の傍にいる。

本人曰く、龍神であるらしい。
この国、悠龍国にはその国名にあるように、昔、龍神を友と呼んだ男が初代皇帝となったという逸話がある。

そして、その後も龍を友と呼んだものは、龍が空を飛んだ治世は繁栄する、安泰するなどという逸話も─……。

しかし、神狼はあまり信じていなかった。
何故なら、龍神を名乗る琉琉は目の前でお菓子を食べ、寛ぎまくっていて、威厳の欠片もないからである。

「太るぞ」

「余は龍神じゃから、そんなことはない。これも仮初の姿じゃし……大体、不敬すぎるぞ!そなた!」

「今更だろ」

幼い頃、母を喪ったあの日。
龍神ならば死なせてくれ、と、泣きじゃくった神狼に、目の前の幼女は呪いをかけた。
それも『死ねない呪い』を、だ。
そして、神狼をとんでもない運命に引きずり込んだ。

『お主に死なれたら、この国は全てが終わる。だから、そなたが救うのじゃ、全てを』

そう言って、神狼に皇帝になることを求めた。
めちゃくちゃな話だった。
そんなことをする義理なんて、神狼にはないと言うのに。

「……はぁ」

確かに、この国は変わらなければならなかった。
度重なる重税、上の人間は湯水の如く金を使う毎日。
多くの食材が捨てられる皇宮。
多くの民が苦しむ飢餓。
国は何のために存在している?
民は、何のために存在している?
─それは決して、貴族を活かす為なんかではない。

そんなこと、神狼だって理解している。
だって、皇子なんて名ばかり。
実際は飢餓に喘ぐ生活をしていたから。
明日、一緒に飯を食べた人間と会えるか分からない。
そんな、死に近い日々だったから。

だから、自分を護衛してくれていた男が臣下を引き連れて、反乱を願ってきた時、神狼は拒絶出来なかった。