初恋が君に届くまで

翌週。
丈がフィラートを定期訪問する日が来た。

つむぎは資料を手に打ち合わせの準備を進める。

丈が構築したシステムはこれまで特に大きなトラブルもなく、使いやすくなったと評判もいい。

得られるデータも格段に増え、あらゆる部署で仕入れや販売戦略に活かせると喜ばれていた。

今日は改めて各部署から代表者が集まり、意見交換を行うことになっている。

時間が近づくとつむぎはエントランスに下り、丈を出迎えた。

「こんにちは、綾瀬さん。今日はよろしくお願いします」
「こんにちは、渡辺さん。こちらこそどうぞよろしく」

仕事上の挨拶をしてから、つむぎはエレベーターで丈を会議室まで案内した。

(こういう感じだと平常心でいられる)

丈に告白された時は、あまりのことに拒絶するかのごとく首を振った。

二人きりでデートするなど、考えただけで手に汗握る。

1時間程度ならなんとか我慢できそうだが、恋人としてのおつき合いとなるとそうはいかないだろう。

とにかく緊張と恥ずかしさで、無理!と断ってしまった。

丈はそれでも構わないと言い、毎日少しのメッセージをやり取りしている。

今日はあの日以来初めて顔を合わせたが、仕事としてなら落ち着いていられた。

会議室には、カスタマーサポート部やロジスティクス部、マーチャンダイジング部とクリエイティブ部の担当者が顔を揃えていた。

つむぎがドアを開けて「どうぞ」と丈を促すと、皆は立ち上がって「綾瀬さん!」と破顔する。

「お久しぶりです。お元気でしたか? って言ってもまだそんなに経ってないけど。毎日顔を合わせていたから、なんだか随分久しぶりに感じます」
「そうですね。私もこのオフィスが懐かしくて。皆さんと過ごした時間はとても楽しかったです」

そんなふうに和やかに打ち合わせは始まり、各部署から「新システムのおかげで本当に助かっています」という報告を、丈も頷いて聞いていた。

打ち合わせが終わるとそのまま会議室にケータリングを頼んで、ランチしながら雑談する。

丈はあっと言う間に女性社員に囲まれていた。

「綾瀬さん、片思いの彼女はどうなりました?」
「ああ、今まさにアタック中です」
「そうなんですね! 綾瀬さんが告白して頷かない女の子がいるとは思えませんけど。もしかして、どこかのご令嬢とか、セレブとか?」

つむぎはドキッとする。
こんな自分が相手だと思うと申し訳なさでいっぱいになった。

丈は穏やかな笑みを浮かべたまま答える。

「私にとっては誰よりもかけがえのない人です。初恋の相手なので」
「初恋!? 恋愛も百戦錬磨って感じの綾瀬さんが、そんなピュアな恋を? キュンとしますー。綾瀬さんでも振り向いてもらえないんですか?」
「ええ。どうすれば好きになってもらえるかと、必死です」

そう言うと丈は顔を上げてつむぎと目を合わせ、にっこりと微笑んだ。

ひえっと首をすくめて、つむぎは慌てて視線をそらす。

その後もひたすら離れた場所で、会話に入らないように気をつけていた。