初恋が君に届くまで

ルーチェを出たあとタクシーでつむぎをマンションまで送り届けると、丈は自宅へと向かう車内でぼんやりと外の景色を眺めていた。

これまでのつむぎとのことを思い出して、小さくため息をつく。

自分はどうやら全く恋愛対象ではないらしい。

最初に二人でルーチェに行った時のひとり言で、つむぎに「かっこいい」とか「モテ男」と言われた時は舞い上がったが、それは決して好きだという意味ではなかったのだ。

同期の友美と一緒にランチにと誘われた時は嬉しくて、正直に好きな人がいることも話した。

その流れでつむぎに今恋人がいないこともわかったが、そこからがどうにもドライな感じなのだ。

(俺のことなんて、単なる委託業者としか思ってないんだろうな)

営業のオフィスに行って、つくづくそう感じた。

「つむぎちゃん!」と皆に声をかけられるつむぎに、自分は部外者なのだと疎外感を覚えた。

極めつけは、岡田だ。
さすがは営業成績トップだけあって、とにかく人の懐に飛び込むのが上手い。

控えめで物静かなつむぎが岡田のひと言ひと言に、とても楽しそうに笑うのだ。

(彼女のあんなに明るい笑顔、初めて見たな)

それはつむぎ自身も感じているだろう。
岡田といると楽しいと。

(それなら俺は? 彼女にとって、ただの同級生止まりだろうな)

彼氏募集中でもなく、友美にも消極的だと言われていたつむぎ。

恐らく今は頭の中に恋愛のことなんてないのだろう。

そんな彼女が誰かを好きになるとしたら……。

きっと、そう。岡田みたいな人と接するうちに、いつもの間にか一緒にいるのが楽しくなり、気づけば好きになっていた。
そんな流れが思い浮かぶ。

ではもし今自分が告白したら?

(速攻で断られるだろうな。なんかこう、健康食品の強引な訪問販売を拒むみたいに、いやいや結構です、とかって。頭で考えるより先に拒絶されそうだ)

そう考えるとガックリ肩を落とした。

(自然な流れで俺といる時間を心地よいと感じてくれて、そこから少しずつもっと一緒にいたいと思ってくれれば)

時間はかかるだろう。
けれど諦めるつもりはない。

(こうして再会できたんだ。なんとしてもこの機会を大切にしなければ。二度と同じ後悔はするもんか)

グッと拳に力を込めて、心に決めた。