初恋が君に届くまで

その翌週。
営業の岡田から内線電話がかかってきた。

「つむぎちゃん、色々準備できたから例のバーに連れて行ってもらえないかな? 綾瀬さんも一緒に」
「承知しました。綾瀬さんと日程を相談して、またかけ直しますね」
「うん、お願いねー」

電話を切るとすぐさま丈のデスクに行き、スケジュールを確認する。

木曜の夜が都合がいいとのことで、岡田にもそれを伝えてOKの返事をもらった。

つむぎは訪問の前にバーのマスターに電話で挨拶しておくことにする。

営業課の担当者から、今後の商品のご購入に関して話をさせていただきたいと話すと、快く承諾してくれた。

迎えた木曜日。
定時になるとロビーで岡田と落ち合い、3人でルーチェに向かう。

「いやー、つむぎちゃんと食事に行くって言ったらほかのやつらにヤイヤイ言われたよ。振り切るのが大変だったんだ」
「岡田さん、語弊がありませんか? お仕事の一環なのに」
「もちろん! つむぎちゃんにいいとこ見せるチャンスだもんね。営業のエースと言われる俺の実力、とくとご覧あれ」

電車に揺られながら喜々として話す岡田に、つむぎは苦笑いする。

(でもこういう話術が営業では必要なのよね。私も見習わなくちゃ)

すると吊り革に捕まりながら岡田がつむぎに顔を寄せた。

「あれ? つむつむ髪型変えた?」
「髪型は変えてませんけど、岡田さんは私の呼び方変えました?」
「あはは! 上手いね。なかなかやるな、つむつむ」
「私、ツムツムは下手ですよ」
「じゃあムギムギは?」
「大好きです。牛乳かける派です」

俺も!と岡田は嬉しそうに笑う。

「気が合うなー、俺達」
「合うのはムギムギの食べ方だけですよ」
「食の好みは夫婦関係でも大事だって言うだろ?」
「夫婦じゃないので関係ないですね」
「なかなか手強いな、ムギムギ。よーし、俺の営業マンとしての本気を見せてやる」
「それ、今じゃないです」
「今でしょ!」

そんなことを話しているうちに目的の駅につき、3人で電車を降りる。
岡田は歩きながら、今度は丈に話しかけた。

「綾瀬さんって、システムインテグレーターなんですよね? 略すと、なんでしたっけ。アイアイサー?」
「エスアイアーです」
「おおー、かっこいい! 俺達は営業マンですけど、今のご時世はそう言わない方がいいんですよ。ほかになにか、かっこいい呼び方ありませんか?」
「そうですね……。セールスコンサルタントはいかがでしょう」
「それいい、かっこいい! 略してセルコン!」

岡田は「今度から名刺はセルコンで刷ってもらおう」とご満悦だった。