きみが光るたび、淡くなる

月日が立ち、無事に大学の卒業式を終えた私・佐伯雨瑠。
実家で父や兄、家で働いてくれている人たちにひとしきり祝われた後。
「・・・雨瑠?」
ようやく本格的な活動ができる、とアパートへ向かおうとした私を兄が引き留めた。
「どこに行くんだ?」
「え?・・・アパート」
事実をそのまま答えると、兄はその返答が気に入らなかったのか、不機嫌そうに顔をゆがませる。
「・・・今日くらいは泊っていったらどうだ。全然妹とコミュニケーションとれなくてお兄ちゃんは寂しいよ」
「いいかんげん、ひな兄もそのキャラやめたら。私はあの子たちと約束してるから」
「お兄ちゃんよりもどこの馬の骨とも分からない男を優先するのか⁉」
なんなのこの愚兄、なんで妹の父親ポジションにいるんだ。
「いい子たちだって説明したでしょ。百色(としき)、ひな兄を頼む」
このまま引き留められ続けては面倒なので、近くにいた執事の百色に兄のことを頼んでおく。
「かしこまりました、お嬢様。この百色は、お嬢様がなさること全てを応援いたします。さ、若様、行きますよ」
「雨瑠ぅ・・・お兄ちゃん寂しいよ・・・」
また最初と同じことを言いながら百色に連行される兄を見送る。
さて、卒業の報告と一緒に、メンバーとこれからのことを話し合おうか。
毎日会ってコミュニケーションをとっているはずなのに、なんだか、長らくは慣れていた人と再会するような気分だ。
外で待機している車に乗り込むと、中に父がいることに気づく。
「・・・お父さん?」
なにをしているのかと呼ぶと、フランス人である父は私に座るよう促しながら、車を発進させた。
「・・・雨瑠、卒業おめでとウ、こんなに立派ナ子に育ってくれテ、嬉しいヨ」
少し訛りのある日本語を話す父。
その不自然な感じになれてからは、何故か安心感を覚えるようになっていた。
「お父さんも・・・今まで育ててくれてありがとう」
「いいヨ。やっと本格的に活動ガできるんだネ。頑張っテ」
「うん・・・絶対デビューさせてみせる。あんなにいい子たちなんだから、その夢を叶えてあげたい」
「・・・お父さンはずっと雨瑠のコト、応援してるヨ」
穏やかに目を細める父に、感動するはずなのに、『なんでこの父からあんな兄が生まれたんだろう』と考えてしまう。
「ほラ、着いたヨ」
「あ・・・ありがとう。行ってきます」
「うン。雨瑠、お父さンはいつも雨瑠の味方だからネ。愛してるよ」
「・・・うん」
お父さん、いつの間に『愛してるよ』だけそんなに完璧な発音で言えるようになったんだ。