誰も愛さない天才王の覚醒 〜俺が新・王? 両親が命懸けで守ってくれた国なので、十人の最強の寵妃と完璧に経営してみせます〜

深夜、王の執務室。

月光だけが差し込む静寂の中、アルフレッドは一人、大きなチェス盤の前に立っていた。

盤上には、巨大な王(キング)と、それを囲む数々の駒。

「一人の正妃を指名すれば……ハミルトン公爵家が勝者となり、他の大貴族たちが敵に回る。ハミルトンを退ければ、別の貴族が暴動を起こす。かといって、父上の真似をして一人だけを愛せば、政治的な足場を失い、母上が再び標的になる……」

アルフレッドは白のキングを指で弄んだ。

父・レオンハルトは「愛」ゆえに一つの正妃を選び、国を揺るがした。

貴族たちは「権力」ゆえに自らの娘を正妃に据えようと争っている。

「愚かな……。なぜ『一人の正妃』という狭い枠組みに固執する? 正妃という単一の絶対権力を作るから、奪い合いが起きるのだ」

アルフレッドの脳内で、思考の速度が加速していく。

カタリナの部屋で読みあさった歴史書、フィオナから学んだ帝王学と経済学、そして母が命がけで生き抜いた後宮の凄惨な血闘――。

それらすべての情報が、頭の中で組み合わさっていく。

(誰も勝たせず、誰も負けさせない……。権力を分散させ、互いに監視させ、均衡を保つ構造……)

「そうか……」

アルフレッドの口角が、冷酷な笑みへと吊り上がった。

チェス盤の上に置かれた『女王(クイーン)』の駒。

アルフレッドはその駒を手に取ると、思い切り盤外へと弾き飛ばした。

コトン、と音を立てて床に転がるクイーン。

「正妃という存在そのものが、争いの元凶なのだ。ならば……『正妃』など最初から作らなければいい」

アルフレッドは盤上に、十個の『ポーン(歩兵)』の駒を整然と並べた。寸分の狂いもない、完全な円陣。

「十人の側室を置き、全員をまったく『同等』の地位に据える。一人の正妃を作らず、十の実家に均等な利権と権力を分散させる。争えば自らの首を絞めるだけの【完璧な均等】(チェックメイト)……」

それは、後宮の歴史を根本から覆す、あまりにも狂気的な奇策だった。

かつて初代国王が作った「妻を5人持ち、子は1人」という狂った不条理の法。

それを逆手に取り、アルフレッドはさらにスケールアップさせた「誰も愛さない、誰も勝たせない十人後宮」という絶対不可侵のシステムを構築しようとしていた。

「父上……貴方が愛に殉じたのなら、私は冷徹なシステムでこの国を統治してみせます」

窓の外を見上げる王子の瞳に、妖しいまでの天才のひらめきが宿っていた。

「私の後宮に『愛』はいらない。必要なのは、国を動かすための【完璧な駒】だけだ」

天才王アルフレッドの、前代未聞の反撃が始まろうとしていた。