レオンハルトの遺体が冷めやらぬうちに、王宮の空気は一変した。
悲しみの静寂は押し流され、むき出しの野心と権力欲が回廊を吹き抜ける。
先王の国葬が明けた翌朝。
大広間に招集されたのは、国内最高峰の権力を誇る貴族たちだった。
その中心に立つのは、保守派の首魁・ハミルトン公爵である。
高壇の上に立つ15歳の新王アルフレッドと、その隣で喪服を纏う大太后エレナ。
ハミルトン公爵は二人の前に進み出ると、うやうやしくもおざなりな礼をとった。
「新王アルフレッド殿下、ならびに大太后様。先王陛下の崩御、まことに痛惜の極みにございます。しかし……悲しみに暮れている暇はございません」
公爵の声が、大理石の広間に響き渡る。
「現在、王家は先王陛下が押し通された『正妃一人のみ』という歪んだ体制により、極めて脆弱な状態にあります。さらに、殿下のお体には……失礼ながら平民の血が混じっておられる。このままでは諸外国や国民の信用を得ることは不可能です」
「公爵、控えなさい!」
エレナが凛とした声を上げた。
「先王陛下が命を懸けて作り上げた平和を、その死の直後に侮辱するのですか!」
「侮辱ではございません、大太后様。現実の話をしております」
ハミルトン公爵はせせら笑い、羊皮紙の巻物を広げた。
「我がハミルトン公爵家を筆頭とする大貴族連合より、新王即位の『絶対条件』を提示させていただきます。――殿下は直ちに我が娘、グレース・ハミルトンを『唯一の正妃』として指名なされるべし。そして、不浄の血を弾くため、今後の国政は大貴族会議が主導する」
ざわめく大広間。
それは事実上の脅迫であった。
「もし……この要求を拒まれた場合は?」
アルフレッドが冷たく問いかける。
ハミルトン公爵は歪んだ笑みを浮かべた。
「拒絶とお受け取りした場合……我ら大貴族連合は殿下の即位を認めず、領地へ引き上げます。結果として国境の防備は崩壊し、国内は即座に内乱状態となりましょう。……お選びくだされ、若き殿下」
圧力を前に、集まった小貴族たちは青ざめ、息をのんだ。
エレナは拳を握りしめ、かつて我が子を守るために戦った「母としての闘志」を再び燃やし始める。
(レオンハルト様が命をかけて守ったこの子を、決して奴らの傀儡(かいらい)にはさせない……! たとえ再び魔女と呼ばれようと、私はこの子を守るために戦う!)
しかし、当のアルフレッドは、微動だにせずハミルトン公爵を見つめていた。
その氷のような瞳の奥で、何かが冷たく燃え上がっているのにも気づかずに。
「……検討しよう。下がるが良い」
アルフレッドの短い返答で、緊迫した謁見は幕を閉じた。
悲しみの静寂は押し流され、むき出しの野心と権力欲が回廊を吹き抜ける。
先王の国葬が明けた翌朝。
大広間に招集されたのは、国内最高峰の権力を誇る貴族たちだった。
その中心に立つのは、保守派の首魁・ハミルトン公爵である。
高壇の上に立つ15歳の新王アルフレッドと、その隣で喪服を纏う大太后エレナ。
ハミルトン公爵は二人の前に進み出ると、うやうやしくもおざなりな礼をとった。
「新王アルフレッド殿下、ならびに大太后様。先王陛下の崩御、まことに痛惜の極みにございます。しかし……悲しみに暮れている暇はございません」
公爵の声が、大理石の広間に響き渡る。
「現在、王家は先王陛下が押し通された『正妃一人のみ』という歪んだ体制により、極めて脆弱な状態にあります。さらに、殿下のお体には……失礼ながら平民の血が混じっておられる。このままでは諸外国や国民の信用を得ることは不可能です」
「公爵、控えなさい!」
エレナが凛とした声を上げた。
「先王陛下が命を懸けて作り上げた平和を、その死の直後に侮辱するのですか!」
「侮辱ではございません、大太后様。現実の話をしております」
ハミルトン公爵はせせら笑い、羊皮紙の巻物を広げた。
「我がハミルトン公爵家を筆頭とする大貴族連合より、新王即位の『絶対条件』を提示させていただきます。――殿下は直ちに我が娘、グレース・ハミルトンを『唯一の正妃』として指名なされるべし。そして、不浄の血を弾くため、今後の国政は大貴族会議が主導する」
ざわめく大広間。
それは事実上の脅迫であった。
「もし……この要求を拒まれた場合は?」
アルフレッドが冷たく問いかける。
ハミルトン公爵は歪んだ笑みを浮かべた。
「拒絶とお受け取りした場合……我ら大貴族連合は殿下の即位を認めず、領地へ引き上げます。結果として国境の防備は崩壊し、国内は即座に内乱状態となりましょう。……お選びくだされ、若き殿下」
圧力を前に、集まった小貴族たちは青ざめ、息をのんだ。
エレナは拳を握りしめ、かつて我が子を守るために戦った「母としての闘志」を再び燃やし始める。
(レオンハルト様が命をかけて守ったこの子を、決して奴らの傀儡(かいらい)にはさせない……! たとえ再び魔女と呼ばれようと、私はこの子を守るために戦う!)
しかし、当のアルフレッドは、微動だにせずハミルトン公爵を見つめていた。
その氷のような瞳の奥で、何かが冷たく燃え上がっているのにも気づかずに。
「……検討しよう。下がるが良い」
アルフレッドの短い返答で、緊迫した謁見は幕を閉じた。



