誰も愛さない天才王の覚醒 〜俺が新・王? 両親が命懸けで守ってくれた国なので、十人の最強の寵妃と完璧に経営してみせます〜

側室たちが旅立ってから、八年の歳月が流れた。

かつて七歳だった王子アルフレッドは、十五歳となった。

その成長ぶりは、誰もが息を飲むほどだった。

父親であるレオンハルト譲りの彫刻のように美しい顔立ちと、母親エレナ譲りの澄んだ瞳。

だが、その醸し出す雰囲気は、弱冠十五歳にして「凛冽たる氷の刃」そのものであった。

実直で、妥協を許さず、そしてどこまでも冷徹。

学問、武芸、政治手腕のいずれにおいても、すでに大人の閣僚たちを遥かに凌駕する天才へと育っていた。

しかし、王国の平和に再び暗雲が垂れ込め始める。

国王レオンハルトの体調が、急速に悪化し始めたのだ。

かつて過酷な政務と、妻たちの激しい愛憎劇の板挟みとなって心をすり減らしていたレオンハルト。

彼の身体は長年の心労により限界を迎えており、ベッドで横になる日が増えていたのである。

「ゲホッ……ゲホッ! ……エレナ、すまないね。また心配をかけて……」

「お話しにならないでください、レオンハルト様。お薬を温めてまいりましたから」

病床の夫に優しく付き添うエレナ。

だが、王宮の扉を一歩外に出れば、ハイエナのような貴族たちが「王の衰え」を察知して動き出していた。

「国王陛下はもう長くはあるまい」

「今のうちに、我がハミルトン公爵家の娘を『正妃』として送り込み、新王の母としての権力を握らねば!」

大貴族ハミルトン公爵率いる保守派貴族たちは、露骨な圧力をかけ始めていた。

現在、正妃の座にはエレナが就いている。

だが、貴族たちは「平民出身のエレナは即位の儀式において正式な資格を満たしていない」と無茶な屁理屈を捏ね上げ、エレナを正妃の座から引きずり下ろそうと画策していたのだ。

「アルフレッド殿下が即位されること自体は認めよう。だが! 王妃は我がハミルトン公爵家の誇る最高爵位の令嬢・グレースでなければならん!」

「平民の血を引く若き王に、平民の母。これ以上、王家の威信を傷つけることは断じて許されぬ!」

彼らは朝議のたびにレオンハルト王の病状を無視して詰め寄り、無理難題を突きつけた。

もし断れば、自分たちの領地の兵を動かし、内乱を起こすとまで匂わせてきたのである。

「くそっ……あの愚か者どもめ……! 私が生きているうちに、エレナとアルフレッドの地位を盤石にしなければならないというのに……!」

病床で激昂し、血を吐くレオンハルト。

そして、その惨状を、十五歳になったアルフレッドは冷ややかな瞳で見つめていた。

(父上は、母上を心から愛している。だからこそ、母上を正妃の座に留めようと必死になり、政治的に追い詰められているんだ)

アルフレッドは自室のチェス盤を見つめながら、静かに思考を巡らせる。

母エレナは美しい。父の愛も尊い。

だが――その「愛」という感情こそが、父を弱らせ、貴族たちにつけ入る隙を与え、結果として国全体を内乱の危機に陥れているのではないか?

(愛は人を盲目にする。愛は人を弱くする。父上は母上を愛するがゆえに、政治的な妥協ができず、自らの命を縮めている……)

アルフレッドの胸の中で、父と母の「愛」に対する歪んだ解釈が、深い呪いとなって根を張り始めていた。

「ハミルトン公爵……。我が家門の娘・グレースを正妃に据えよ、か」

アルフレッドはチェスの王の駒を手に取ると、カチリと音を立てて盤上に置いた。

「一人の正妃を選べば、その実家が肥大化し、選ばれなかった他の大貴族たちが反乱を起こす。父上はその単純な構造に、母上への『愛』という不純物を混ぜるから解決できないんだ」

十五歳の天才王子の瞳に、妖しいまでの冷光が宿る。

「ならば……誰も勝たせず、誰も負けさせない【不条理な盤面】を僕が作ればいい」

王宮に潜む「正妃の罠」に対し、アルフレッドは親世代の誰しもが思いつかなかった、前代未聞の奇策を脳内で組み上げ始めていた。