「おーいロマン、おはよう」
「あ、レイ、おはよう。今日は出社なの?」
「うん、会社のスタジオ使いたくてね」
「ロマンは今週、大学行かないの?」
「うん、今週はこっちで仕事しながら、リモートで受講」
「あ、ゴメンゴメン、ロマン社長だった」
「ははは、いいのよ、ロマンで」
ワタクシは熊鹿町が出資して設立されたベンチャー企業、『くましかブランド』の社長を任されていますの。東京の大学の経済学部に通いながらの二刀流でがんばってまーす!
会社では、熊鹿町の町おこしを行いながら、そのノウハウをほかの消滅可能性都市にも提供しています。レイには、彼女のコンテンツ制作能力を買って、広報プロモーションをお任せしているの。
「でもさー、ロマンのスゴイところは、クマさんとシカさんのことも考えていることだよねえ」
「あはは、それはまだまだこれからよ……この町では大事な財産だからね」
今通っている大学の生物学部の先生に、熊や鹿など北海道の野生動物との共存を目的とした調査研究の取り組みを熊鹿町と共同でできないかと働きかけている。駆除して食べるだけでなく、ココを動物と人間との新しい関わり方の、情報発信源にしたい。
「よう、ロマン」
「おはよう、ルカ」
ルカは旭川の専門学校を卒業したら、すぐにここに戻って、わが社の料理開発部門で働いています。
彼女は全国各地のご当地ブランドグルメづくりをサポートしていますけど、実家のお店も文句いいながら手伝っているみたい。
「ねえ、ロマン、頼まれたユーカラ織りの帯のサンプルできたんだけど、ちょっと見てくれる?」
「リョウ、もうできたの? 見せて見せて!」
彼女も札幌の専門学校を出てウチで働き始めて、衣類や雑貨の商品開発を担当しているの。……腕を磨いてきましたわね。
「ロマンちゃん、じゃなかったロマン社長、お久しぶり」
制服姿の子供たちを引き連れて、町役場に間借りしているオフィスに入ってきたのは、ラナちゃん先生。
「あ、そうか。今日は生徒さんのオフィス見学の日だったわね。みんな、ようこそ『くましかブランド』へ!
なぜか女子生徒ばかりのグループは、恥ずかしそうにビョコピョコンとお辞儀した。
「ロマンちゃん、ほんとありがとね。あなたが『国内留学制度』の導入を提案してくれたから、ほら、この通り、今年は八人も全国から留学生が来てくれたの。おかげで被服部も何とか続いているわ」
「なーんもよ。みんなが来てくれるのは、この町の魅力と……あとラナちゃん先生の人柄だべさ」
その土地の魅力。そこに住む人の魅力。これをブランドとして強く伝えていければ、『消滅可能性』なんて消えていくに違いない。
三つのアイ。
愛される場所。愛される人々。そして、そんな宝物を愛する、ワタクシたちひとりひとりの思い。
大事に大事に、育んでいきたい。
そう。レイが配信した九州宣戦布告や、温泉レポ、そして絶叫コンテストなど、ラナちゃん先生の動画を見て、この町とココに住む人に興味を持った人がいっぱいいるんですもの。
九州の元祖絶叫コンテストとの対立構造で煽ったら炎上するんじゃないかって、商工観光協会長さんが懸念されてましたけど、ラナちゃん先生、つまり娘さんがいい緩衝材になってくれるので、まず炎上なんか起きないと期待していたの。この狙いは当たったみたいね。
……残念ながら、絶叫コンテストで先生が強く訴えた、イケメンの彼氏候補は、いまだに現れてませんけど。
(了)



