絶叫すんべ! 道産子JKは、消滅寸前マイスイート・タウンで恋を叫ぶ?


「お晩でございました」
 熊鹿町商工観光協会の会長さんが、オレたち四人に深々と頭を下げて挨拶する。要するにこのオジサンは、被服部顧問のラナ先生の親父さんだ。
 オレは、北海道から一歩も出たことがないけど、年輩の人たちの、夜の挨拶の独特な言い回しにモヤモヤする。『お晩でございます』ならわかる。でも、これから会って話をする相手に向かって、何で過去形? ……人に聞くと、過去形にするのは超へりくだりの表現で、道内のホテルの接客なんかでよく使うそうだ。

 今、オレたち四人は、町役場の別棟にある商工観光協会を訪れている。『ジビエ喰ってシャウト!くましかフェス2024』の詳しい説明を受け、準備に向けての打ち合わせをするためだ。もちろん、ラナ先生も同席している。
 協会の催事企画課の課長さんと担当の若い男性から、ファッションショー、ジビエ試食大会、絶叫コンテストの進行の流れと、会場の設営状況、人員配置や用意している備品などの細かい説明を受けた。

「簡単に言えば、私たちはファッションショーの衣装を用意してモデルとして参加し、ジビエ試食会場に移動して美味しそうに食べてレポして、そのあと特設ステージがセットされた『見晴らし山』の絶叫コンテスト会場で、思いの限り叫べばいいのですね?」
 ロマンはいつものように笑みを浮かべながら話をまとめたが、眼鏡の奥の目が笑っていないのが気になった。
「はい、その通りです。ネット配信用に撮影スタッフが同行しますが、気にしないで普段通りにしていてください。誘導もこちらでやりますんで」

「はいはい!だいたい打ち合わせも済んだようだし、おしまいにして、軽く食事をしていってください」
 協会長はそう言うとパンッと手を叩いて奥の部屋に向かって、おーいと声をかけた。
 別の若い男性スタッフが大きなお盆をかかえ、打ち合わせをしていたテーブルの上に、大皿に載った料理と取り皿とペットボトルのジュースを置いていった。

「さあどうぞ召し上がって! 熊鹿町オリジナルの『クマ・シカ肉と山のキノコのもっつあられチーズピザ』だよ」
多分、『モッツァレラ』と言いたかったのだろう。オレたち四人は顔を見合わせた。これ、高校の給食で何度か出ている。ちょっと食傷気味だ。
 でも、この建物のどこで焼いているのか謎だが、焼きたてで結構ウマかった。

 空っぽになった皿は片づけられ、日本茶が出てきた。
 協会長がしみじみと語る。
「この町も若者がどんどん減っていって寂しい限りだけどね、このイベントが成功して、少しでも歯止めがかかるといいなと心から思っておるんだわ」
「ええ、オレ、じゃなくて私たちもそうなるよう頑張ります」
 大人の返答をしてオレは熱いお茶を啜った。
「ウチの娘にもな、くれぐれもよろしくと頼んであるんだが、君たちはこのイベントに参加して、最後に『私たち、この町が好きです、ずっとここで暮らしていきます』って言ってくれるんだそうで。それを愉しみにしとるんだ」

「お父さん!」
 ラナちゃん先生の顔からさっと血の気が引くのがわかった。

「ラナ先生……、これはどういうことかな?」
 オレはなるべく感情を抑えて先生に尋ねた。

「ん? わし、何かまずいこと言ったか?」
 協会長が、オレと娘さんの顔を見比べる。

「……ご、ごめんなさい。このイベントが終わったらね、ネット動画のインタビューで『どうですか、この町にずっと住みたいですか?』って四人に聞く予定なの……改めてこの町に愛着を持ってくれるかもだし、周りの目もあるし……きっと『はい』って答えてくれるよって、父に言っちゃったの……ほんとうにごめんなさい」

 ラナ先生は、テーブルに額をこすりつけて謝る。
 言質をとろうってわけか。その場の成り行きとは言え、そんなことを軽はずみに言ってもらっちゃあ困る。そこ、オレたちが今一番悩んでいることなんだから。
 オレが『この話、なかったことにしたいんだけど』と言いかけたその時。

 バーン! とイベントの資料をテーブルに叩きつける音がした。

 そこにいる者、みんながビビった……ロマン以外は。

「なっていないですね」

「本当にごめんなさい……」
 ラナ先生が消え入るように再び謝る。
「それも、ですけど……問題はこの企画です」
「こ、これが何か!?」
 催事企画課長が動揺する。

 ロマンはすくっと立ち上がり、強めの口調で話し始めた。
「まずは、アテンションとなるヒキが全然足りません。このくらいでは、メディアもネットも見向いてくれませんわ」
 彼女は事務所の壁に貼ってある、この町の観光ポスターを叩いた。
「それから、このままじゃ、町の魅力が全然伝わらないでしょうね……熊も鹿も。そのほかの魅力も」

「そ、そういうもんだべか!?」
 催事企画課の若者がうめいた。

「私たちが参加する条件として、二つお願いがあります」

「……お父さん、聞いてあげて」
「わ、わかった」
「一つ目。まず、フェスの日程を変更してください」
「え!」一同、驚く。

「本場の『牛喰い絶叫大会』が10月に開催されるのをご存知ですか?」
「はあ、なんとなく」課長が自信なさげに答える。

「この開催日に『ジビエ喰ってシャウト!くましかフェス2024』をぶつけてください」
「え!」一同、驚く。

「対立構造を作って煽るのです」ロマンはきっぱりと言い放つ。
「そ、そんなことしたら、炎上騒ぎになるのでは!?」
 協会長は眉を寄せ、困り顔になった。
「大丈夫です。そうならないよう対策しますが、もし炎上しても、ジリ貧のこの町にはメリットしかありません」
「もう一つ、ニュースリリース費用と出張費として、予算を30万円増やしてください。ネットのPRを増やします。あと、ニュースリリースの原稿はワタクシが用意しますので、それをテレビ局、新聞社に持ち込んでください」

 部活を通じて、ロマンは、なかなか有能なやつではないかとオレは踏んでいたが、遂に本性を現しやがったか。
 でも、まだまだこんなものじゃあなかった。
 ロマンは続ける。

「あ、ごめんなさい、お願いごとがもう一つあったのを忘れていました」

 ロマンはラナ先生に近づき、向き合った。
「ラナちゃん先生……頼まれてくださるかしら?」
 眼鏡越しの薄い微笑みが迫力満点だ。

「はいはいはい……何でもやります何でもやります……」
 ロマンは、ひれ伏する先生から、協会長に向き直った。 
「協会長さん。娘さん、じゃなかったラナちゃん先生にはいろいろお願いしたいことがあるので、校長先生と町の教育長には根回しをお願いしますわ」
 そういって、彼女は眼鏡のブリッジを指で上げ、顔を傾け、白い歯を見せて微笑んだ。
 一同みな、背筋に冷たいものが走った。