絶叫すんべ! 道産子JKは、消滅寸前マイスイート・タウンで恋を叫ぶ?


 カコーン。

 ピチャ。

 カポーン。

 湯気がモウモウと立ち込める大きな湯舟にわたしたち四人は浸かっている。
 見晴らし山の中腹にある熊鹿高校の隣りに、町営の天然温泉が湧く公衆浴場がある。
 学校帰りに部活帰り、生徒達はよく利用するが、わが被服部もちょくちょくお世話になっている。

「なあ、リョウ部長。ラナ先生のさっきの話どうするよ?」
 さっそくルカが切り込んできた。
「うーん、別にやることはそんな変わんないんだし、受けてもいいんじゃないかな」
「えー! 絶叫コンテストはどうすんだべさ?」レイは不安そうだ。

 正直、私は優柔不断な性格だ。部長なんかに向いてないと思うけど、じゃんけんで負けたからしょうがない。だいたいウチの部は被服部って名乗っているけど、そこに至るまでややこしい経緯がある。町立熊鹿高校は、どっちかっていうとノーキン系の生徒が多く、部活はみんな体育部に所属する。もともと文化部の人数は少なかった上に、生徒数も減少して、文化部の統廃合が毎年行われてきた。 
 ラナちゃん先生が元々被服部の顧問で、わたしが部員。部室としても被服室の使い勝手がいいから、被服部という名前だけが残り、元料理部のルカ、元マンガ部のレイ、元ビジネス研究部のロマンが加わったのだ。ビジネス研究部は、何やらロマンがソロでやってたらしい。それって部活? ビジネス研究って何?
 ……とまあ、わたしたち四人、ラナちゃん先生も含めて五人の出会いは、そんな感じだ。

 被服部のメインの活動は、文化祭のファッションショーで、その作業以外はめいめい部室で好きなことをやっている。しかし、みんな三年生なので、わたしたちの卒業とともにこの部は消滅し、熊鹿高から文化部はなくなってしまう……これでいいのかな?

「でも、確かにラナちゃん先生、いつにも増してヨソヨソしくてキョドってて、怪しいものを感じましたわ」
 わたしの隣りで髪をアップにしたロマンが訝しがる。同性ながら、そのセクシーなウナジに惹かれるし、ナイスバディと艶やかな肌は嫉妬さえ感じる。
 普段は眼鏡のマジメ女子だけど、一旦それを外すとヤバいやつだ。お風呂に入る前は目のやり場に困るので、もう少し隠してほしいんだけど。

「だいたいよー、みんなこの町に愛着なんてあるのかよ?……リョウも卒業したらこの町出てくんだろ?」
 そう、ルカの言う通り、心のひっかかりはそこなんだ。
「……うん。札幌の服飾の専門学校に行くつもり。ルカはどうするんだっけ?」
「オレは、調理師になりたいから、旭川の専門学校に行って、飲食店でバイトしながら勉強する予定」
 彼女の実家は、この町でも数少ない洋食店だ。
「専門学校を卒業したら、ここに戻って実家の後を継ぐの?」
「いやー、やっぱ年々お客が減っちゃってさー。店を続けるのは厳しいと思ってんだよね。親は継いで欲しがってるみたいだけどさ……ところでロマンは東京だっけか?」
「ええ、ビジネスや経済の勉強をして、スタートアップのインターンシップも経験しながら、自分でも起業してみたいと思っているの……大変だろうけどね」

 よくわからないカタカナ言葉が出てきたけど……四人の中で大学受験の勉強をしているのはロマンだけだ。
 彼女は続ける。
「ワタクシも、大学を出たら、ここに戻るつもりはないし……生まれ故郷だから、それなりに愛着はあるけど、そんなに執着はありませんしね。ワタクシたちがどうこうしたって、人口減少に歯止めはかけられない。正直、あきらめているわ」
ロマンの言葉が、湯気の中に静かに溶けていく。みんな、この街が嫌いなわけじゃない。ただ、広すぎる外の世界へ踏み出すための言い訳として、諦めという名前の鍵を心にかけているだけなのかもしれない。
カコーン、とまた乾いた音が響いた。まるで、私たちの迷いを見透かしたような音だった。

「おい、レイはこれからどうすんだよ?」
 ルカが手で水鉄砲を作って、ビュッと狙撃した。 
 レイのおでこに見事的中。
「うわっぷ! もうやめてよー!……ボクはね。正直まだ決めてないんだ。これやりたいってのもないし、どこかに行きたいってのもないし……父さんから、ここで暮らすんなら、勤め先を紹介してやるぞって言われている。……ひょっとして、ボクはみんなよっか、ちょっとこの町のこと好きなのかもしれないね」

「レイはココのどこが好きなの?」ロマンが不思議そうに尋ねる。
「……そう言われるとわからないなあ。冬はナマラしばれる(むちゃくちゃ寒い)とか、お店が少ないとか、スマホの電波は入りにくいとか、きらいなところは色々思いつくんだけどね」

「したっけ、そんなに未練ないんじゃない?」私もレイの思いがよくわからない。
「……でもね。ここでもやれることってあるんじゃないかなって思うんだ」
「そうかあ?」ルカは否定的だ。
「……うん、町の人はみんなやさしいし、自然にも恵まれてるし……最近はクマさんやシカさんが多すぎだけどね……ネットの環境がもうちょっとちゃんとすれば、ここでも色々仕事ができるし遊べると思うよ」
「遊ぶって、お前さんは、繁華街とかオシャレな街並みとか興味ないのか?」
「これからは、ネットでバーチャルでも体験できるべさ」
 そう。この子は、ライブ配信したり、イラストや小説を上げたりしていて、ネットが繋がっていれば、楽しめちゃう子だったんだ。
「でも、そういうことじゃなくって……ボクたちが、ここにいるからこそできること」
「ワタクシもその気持ち、ちょっとだけわかるような気がしますわ」ロマンがウナジを触りながらつぶやく。
「そうかあ?」ルカはピンと来ていない。わたしもだ。

「とにかく、この町や住んでる人たちには色々お世話になってきたんだから、フェスには協力しようと思う……どうかな?」
 物事を決められない性格ながら、今のわたしの考えを三人に伝えた。
 で、そだねーってことになった。

 この後、ルカが『セクシー比べ、すんべ!』と言ってきたので、わたしは急いで更衣室に逃げ込んだ。
 ところで、セクシー比べって、なんだべ?