メッセージは得意なのに、君の前では声が出ない。

『メッセージは得意なのに、君の前では声が出ない。』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。作者の紫陽花です。

まずは、この激動の物語を最後まで見届けてくださった読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。

この物語の結末を見届けた皆様の頭の中には、今、たくさんの「どうしてこうなった!?」という驚きと、そしてどこか冷たい余韻が残っているのではないでしょうか。作者である私自身、書き終えた今、胸がバクバクと高鳴るような、少し寂しいような、不思議な興奮の中にいます。

今回は、この物語がどのようにして生まれ、そしてなぜこのような衝撃的な結末へと猛スピードで転がっていったのか、その裏話やキャラクターたちへの想いを、あとがきとしてたっぷりと語らせていただこうと思います。どうぞ、物語の余韻に浸りながら、のんびりとお付き合いください。

1,元々は「切ない失恋」で終わるはずだった、甘酸っぱい恋物語

実は、この物語は最初からこんな凄惨な結末を迎える予定ではありませんでした。

プロット(構成)の段階では、タイトル通り『メッセージは得意なのに、君の前では声が出ない。』という、今の時代ならではの「もどかしすぎる不器用な片思い」をテーマにした、王道の切ない恋愛小説になるはずだったのです。

お互いにメッセージでは両想いのような甘いやり取りをしているのに、リアルでは緊張して一言も喋れない詩織と遥斗。
周りの陽菜や鼓太郎から「早く喋れよ!」と呆れられつつも、読者の皆様には「がんばれ、あと一歩だよ!」と応援してもらえるような、そんな甘酸っぱくて、少し胸が締め付けられるようなストーリーを想定していました。

そして、その先にある展開は「切ない失恋」。

実は遥斗が本当に好きだったのは、詩織ではなく、親友の陽菜だった。
それに気づいてしまった詩織が、自分の大好きな恋心に蓋をして、一番得意で、一番大嫌いになった「メッセージ」を使って二人の恋のキューピッドになる――。
自分の想いをテキストの裏に隠して送信ボタンを押す詩織の姿で、読者の皆様にボロ泣きしてもらう……そんな、切なくも美しい、少し大人の階段を上るような失恋物語にする予定だったのです。

今となっては、「あの綺麗なラブストーリーはどこへ行ったんだ!?」と、作者の私自身も自分の筆の暴走っぷりにツッコミを入れたくなっています(笑)。




2,「麗」という存在と、予定していた長い物語

もう一つ、当初の予定と大きく変わってしまった部分があります。
それは、詩織の友達である「麗」の出番と、物語の長さです。

本当は、もっともっと麗の登場シーンを多くして、物語全体をじっくりと長く書き進める予定でした。

麗は、この5人の中で唯一、最初から「すべての真実」に気づいているキャラクターです。
詩織が遥斗を好きなことも、遥斗の不器用なメッセージの裏にある「陽菜への執着」も、そして陽菜が心に抱える「詩織への歪んだ感情」も、麗だけはすべてを静かに見抜いていました。

本来のロングストーリーの予定では、

麗が詩織にそれとなく警告を発するシーン

麗が鼓太郎と裏で接触し、「このままだと誰も幸せにならない」と現状を打開しようとするシーン

遥斗に対して「あんたのやってることはただの欺瞞だよ」と鋭く冷たい言葉を突きつけるシーン

など、麗のスマートでクールな魅力を存分に描くエピソードをたくさん用意していたのです。
麗の出番をじっくり増やすことで、読者の皆様にも「麗、かっこいい!」「彼女がこの複雑な関係を救ってくれるかもしれない!」と期待してもらえるような、そんな頼れる精神的支柱としての役割を色濃くするはずでした。

しかし、いざ執筆を始めてみると、私の脳内でキャラクターたちが勝手に、そして凄まじい熱量で動き始めてしまったのです。




3,止められなかった衝動――「はやく続きが書きたい!」

小説を書いていると、時々不思議な現象が起こります。
作者である私が「こういう風に動かそう」と考えているコントロールを離れて、キャラクターたちが「私たちはこんな風に生きたいんじゃない、もっと心のドロドロしたものを吐き出したいんだ!」と叫び始めるような感覚です。

今回は、まさにその現象が極限状態で起こってしまいました。

第3章で陽菜の視点に切り替わった瞬間、私の中で「早く続きが書きたい!」「陽菜の心の奥にある本性を暴きたい!」「詩織はどうなってしまうの!?」「麗はどう動くの!?」という衝動が、大波のように押し寄せてきたのです。

「もっとゆっくり、丁寧に日常を描いて、じわじわと切なさをビルドアップしていかなきゃ……」
そう頭では分かっているのに、指先がキーボードの上を猛スピードで走り始め、ストーリーを急かすように、はやく、はやく、と展開を先へ先へと進めてしまいました。

陽菜が抱えていた、詩織に対する「大嫌い」という凄まじい嫉妬心。
それは、自分を犠牲にしてまで「良い子」であろうとする詩織の傲慢さ(陽菜から見ればそう見えたのでしょう)に対する、耐え難い嫌悪感でした。
その陽菜の狂気が爆発した瞬間から、物語は私の手を完全に離れ、ノンストップで坂道を転がり落ちるように、一気に破滅への結末まで駆け抜けてしまいました。

結果として、当初予定していた長さよりもずいぶんと短く、ギュッと凝縮されたサスペンスホラー仕立ての物語になりました。
しかし、この「短さ」だからこそ、日常がガラガラと崩れ去っていくスピード感と、息が詰まるような緊迫感をリアルに表現できたのではないか、とも思っています。あの息苦しい理科室の空気感を、皆様にも一瞬で感じていただけていたら幸いです。




4,キャラクターたちへ寄せる、作者・紫陽花からのメッセージ
ここで、この物語を駆け抜けてくれた不器用すぎる5人のキャラクターたちに、少しだけ言葉を贈らせてください。

水瀬 詩織へ
本当にごめんね、詩織。もっとあなたの可愛い恋路を応援してあげたかった。スマホの中だけがあなたの本当の居場所だったのかもしれないけれど、その不器用な優しさが、結果として陽菜の獣を呼び起こしてしまった。でも、あなたの「大好き」という純粋な気持ちだけは、文字の中にずっと残っていると信じています。

佐倉 遥斗へ
あなたは本当に不器用すぎました。詩織を利用して陽菜に近づこうとした罪は重いけれど、あなたもまた、直接話せない不器用さに苦しんでいた一人の男の子でした。でも、あなたのその不器用さが、結果として最悪の悲劇の引き金を引いてしまった。壊れたスマホの画面を見つめて、今、あなたは何を思っているのでしょうか。

一ノ瀬 陽菜へ
「みんなの太陽」であり続けることは、きっと息が詰まるほど苦しかったよね。詩織の背中を笑顔で押しながら、心の中では彼女を殺したいほど憎んでいた。その二面性を書いているとき、私はあなたの冷たい美しさに少し見惚れてしまいました。最後、麗に刺された瞬間のあなたの表情は、ひまわりのように鮮烈で、そして何よりも寂しげでした。

鼓太郎へ
あなたは最初から最後まで、本当に良い奴でした。親友である遥斗の不器用さに怒り、傷つく詩織を本気で心配してくれた。あなたの温かいアースグリーン(緑色)の優しさだけが、この暗い物語の中の唯一の救いでした。理科室で起こった悲劇を知ったとき、あなたがどんなに傷つくかを考えると、作者としても胸が痛みます。どうか強く生きてください。

麗へ
まさか、あなたがあんな結末を持っていくとは思いませんでした。すべてを静観し、誰よりも冷静だったあなたが下した、陽菜への「断罪」。そして、カメラの向こう(読者の皆様)に向かって言い放った最後の言葉。
「次は、君の番だよ? 私が殺してあげる」
このセリフを書いた瞬間、私の背筋にもゾクッと冷たいものが走りました。あなたは最初から、この物語を一番特等席で楽しんでいた「観客」であり、同時に「絶対的な執刀医」だったのかもしれません。




恋愛小説を期待して読み進めてくださった皆様を、良い意味で裏切るような結末になってしまいましたが、これこそが「紫陽花」という作家が持つ、ちょっぴり毒のある世界観なのだと受け止めていただければ幸いです。

紫陽花の花言葉には、「移り気」や「浮気」といった少しネガティブなものもあれば、「辛抱強い愛情」というものもあります。
メッセージ(文字)を通してしか愛を伝えられなかった詩織の「辛抱強い愛情」が、陽菜の「移り気(歪んだ独占欲)」によって壊され、最後には麗の冷酷な手によってすべてが葬り去られる。
まさに、梅雨の雨の中で静かに色を変えていく紫陽花のような、そんな移り変わりをこの物語で表現できたような気がしています。

駆け足で進んでしまった物語ではありましたが、皆様の心に少しでも深く、冷たい爪痕を残すことができたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。

「次は、君の番だよ?」

麗のその言葉が、今夜、スマホの画面を見つめる皆様の耳元に届きませんように。