メッセージは得意なのに、君の前では声が出ない。

[陽菜視点]

「え……? 遥斗くん、今、なんて言ったの?」

お洒落なカフェのテラス席。
さっきまで「ちょっとお手洗い行ってくる!」と席を立った詩織を待っている間の、何気ないお喋りのはずだった。

なのに、目の前の遥斗くんは、耳まで真っ赤にして私を真っ直ぐ見つめている。
いつもクールで、詩織と目が合うだけでフリーズしちゃう、あの不器用な遥斗くんが。

「だから……俺が好きなのは、陽菜ちゃんです。ずっと、君のことが好きだった」

心臓がドクン、と嫌な音を立てた。
頭の中がパニックでぐちゃぐちゃになる。

「待って、違うよ……! 遥斗くんが好きなのは、詩織でしょ? 二人、毎日メッセージで楽しそうに喋って……」
「あれは……っ」
遥斗くんは悔しそうに唇を噛んで、俯いた。
「俺、不器用だから……。陽菜ちゃんに直接話しかける勇気がなくて。詩織ちゃんに陽菜ちゃんのことばっかり聞いちゃって……本当に最低だと思う。でも、もう隠せなかった」

嘘、でしょ……?

私の頭をよぎったのは、いつだってスマホを愛おしそうに見つめていた、大好きな親友の笑顔だった。
あの子が遥斗くんからのメッセージをどれだけ嬉しそうに私に見せてくれたか。
あの子がどれだけ遥斗くんを想って、リアルで喋れない自分に泣きそうになりながら悩んでいたか。

『陽菜は日曜空いてるみたいだよ』

さっき、詩織に見せてもらった二人のトーク画面。
あれは、詩織が泣きながら、大好きな男の子を私に譲ろうとして送ったメッセージだったんだ。

「――っ!」

「陽菜ちゃん?」
遥斗くんの呼びかける声を無視して、私は席を立っていた。
走らなきゃ。
お手洗いなんかに行ってない。詩織は、私たちを二人きりにするために、最初から消えるつもりだったんだ。

カフェのガラス扉を押し開けて、表の通りに飛び出す。
日曜日の賑やかな街並みを、私はなりふり構わず走り回った。

「詩織! どこにいるの……!?」

息を切らしながらスマホを取り出し、詩織のトーク画面を開く。
指が震えて、うまくフリックできない。

《詩織、どこ!? 今どこにいるの!? お願いだから返事して!》

いつだって一瞬で既読がついたのに、画面は「未読」のまま。
その時、私のスマホに別のメッセージが滑り込んできた。

《やっぱり告白しちまったか。……陽菜、頼むから詩織を追いかけてやってくれ》

鼓太郎からだった。鼓太郎は、遥斗の親友で幼馴染。全部知っていたんだ。私だけが、何も気づかずに二人を煽って、傷つけていた。

「どうして……どうして言わなかったのよ、詩織……っ!」

涙が視界を遮る。
友達想いで、シャイで、メッセージの中でしか素直になれない、世界一不器用で優しい私の親友。

その時、駅前の歩道橋の上に、見覚えのある白いワンピースの後ろ姿が見えた。
トボトボと、力なく歩く、サクラピンクの傘を持った小さな背中。

「詩織――!!」

喉がちぎれんばかりに、私は親友の名前を叫んだ。