放課後のファミレス。
ドリンクバーのメロンソーダをストローでかき混ぜながら、私はスマホの画面に釘付けになっていた。
《今度の日曜ってさ、陽菜は何するのかな? ほら、この前陽菜が『新しいカフェ行きたい』って言ってたじゃん》
心臓が、冷たい水に浸されたように一瞬だけヒヤリとした。
メッセージを見つめたまま、フリック入力する私の指が止まる。
「また遥斗から?」
向かいの席でポテトをつまんでいた陽菜が、ニヤニヤしながら覗き込んできた。
「う、うん。日曜の予定、聞かれて……」
「おっ、デートの誘いじゃん! 行ってきなよ詩織!」
「ち、違うよ! 陽菜の予定を聞かれてるの。ほら、陽菜が行きたがってたカフェ、遥斗くんも気になってるみたいで……」
私の言葉に、陽菜は「あはは!」と無邪気に笑った。
「あそこ? 遠いし、私行くのやめちゃった。詩織が私の代わりに遥斗くんと行ってきなよ! 私のオススメだって言えば、遥斗くんも喜ぶでしょ?」
「……そうだね」
私は無理に笑顔を作って、スマホに文字を打ち込む。
《陽菜は日曜空いてるみたいだよ。カフェ、私じゃなくて陽菜と行きたいんじゃない?(*^^)》
少し意地悪な、でも『そんなことないよ、詩織と行きたいんだよ』という言葉を期待したメッセージ。
けれど、遥斗くんからの返信は、私の予想とは少し違っていた。
《え、本当に!? 陽菜ちゃん、日曜空いてるんだ。……あのさ、もしよかったら、詩織ちゃんも一緒に三人で行かない?》
三人?
どうして、私と二人じゃないの?
「ねえ、詩織」
それまで黙ってココアを飲んでいた麗が、すっと私のスマホを覗き込んできた。
麗の紫色の瞳は、私を哀れむように、そして遥斗くんに対して少し怒っているように静かに揺れている。
「……その人、本当にあんたのことが好きなの?」
「え……?」
「もうやめなよ。これ以上、自分を傷つけるだけだよ」
麗の突き刺すような言葉に、息が詰まる。
「麗、何怒ってんのー?」と陽菜は不思議そうにしているけれど、私は言葉を返せなかった。
だって、思い返せば、遥斗くんからのメッセージはいつもそうだった。
『陽菜ちゃんの好きな髪型ってどんなの?』
『陽菜ちゃん、今日の体育で怪我したって聞いたけど大丈夫だった?』
最初は「私の友達だから気にかけてくれているんだ」と好意的に捉えていた。でも、違った。
彼は私と喋りたいんじゃない。
私の向こう側にいる、太陽みたいに明るい陽菜を見ているんだ。
その日の夜。
部屋を暗くしてベッドに潜り込むと、鼓太郎くんからメッセージが届いた。
《今日、遥斗から聞いた。日曜、お前と陽菜と三人でカフェ行くんだって?》
《うん。そうだよ。楽しみだな》
本心とは真逆の文字を打つ。すると、すぐに鼓太郎くんから電話がかかってきた。
驚いて通話ボタンを押すと、耳元から少し焦ったような、そしてひどく沈んだ鼓太郎くんの声が聞こえてきた。
『……詩織? お前、本当にそれでいいの?』
「え? なにが……?」
『あいつ……遥斗のやつ、不器用すぎて本当にムカつく。お前の気持ちも知らないで、お前を利用して陽菜に近づこうとしてる。俺、あいつの幼馴染だけど……今回ばかりはあいつに腹が立つよ』
鼓太郎くんの言葉で、私の細い希望は完全に打ち砕かれた。
やっぱり、そうなんだ。
遥斗くんのリアルでの「喋りかけたいけど喋りかけられない不器用さ」は、私に対してじゃなくて、陽菜に対してだったんだ。
『詩織。辛かったら、行くのやめろ』
「ううん……」
私の声は、小さく震えていた。
リアルでは声が出ない。でも、この涙だけは、どうしても止まってくれなかった。
ドリンクバーのメロンソーダをストローでかき混ぜながら、私はスマホの画面に釘付けになっていた。
《今度の日曜ってさ、陽菜は何するのかな? ほら、この前陽菜が『新しいカフェ行きたい』って言ってたじゃん》
心臓が、冷たい水に浸されたように一瞬だけヒヤリとした。
メッセージを見つめたまま、フリック入力する私の指が止まる。
「また遥斗から?」
向かいの席でポテトをつまんでいた陽菜が、ニヤニヤしながら覗き込んできた。
「う、うん。日曜の予定、聞かれて……」
「おっ、デートの誘いじゃん! 行ってきなよ詩織!」
「ち、違うよ! 陽菜の予定を聞かれてるの。ほら、陽菜が行きたがってたカフェ、遥斗くんも気になってるみたいで……」
私の言葉に、陽菜は「あはは!」と無邪気に笑った。
「あそこ? 遠いし、私行くのやめちゃった。詩織が私の代わりに遥斗くんと行ってきなよ! 私のオススメだって言えば、遥斗くんも喜ぶでしょ?」
「……そうだね」
私は無理に笑顔を作って、スマホに文字を打ち込む。
《陽菜は日曜空いてるみたいだよ。カフェ、私じゃなくて陽菜と行きたいんじゃない?(*^^)》
少し意地悪な、でも『そんなことないよ、詩織と行きたいんだよ』という言葉を期待したメッセージ。
けれど、遥斗くんからの返信は、私の予想とは少し違っていた。
《え、本当に!? 陽菜ちゃん、日曜空いてるんだ。……あのさ、もしよかったら、詩織ちゃんも一緒に三人で行かない?》
三人?
どうして、私と二人じゃないの?
「ねえ、詩織」
それまで黙ってココアを飲んでいた麗が、すっと私のスマホを覗き込んできた。
麗の紫色の瞳は、私を哀れむように、そして遥斗くんに対して少し怒っているように静かに揺れている。
「……その人、本当にあんたのことが好きなの?」
「え……?」
「もうやめなよ。これ以上、自分を傷つけるだけだよ」
麗の突き刺すような言葉に、息が詰まる。
「麗、何怒ってんのー?」と陽菜は不思議そうにしているけれど、私は言葉を返せなかった。
だって、思い返せば、遥斗くんからのメッセージはいつもそうだった。
『陽菜ちゃんの好きな髪型ってどんなの?』
『陽菜ちゃん、今日の体育で怪我したって聞いたけど大丈夫だった?』
最初は「私の友達だから気にかけてくれているんだ」と好意的に捉えていた。でも、違った。
彼は私と喋りたいんじゃない。
私の向こう側にいる、太陽みたいに明るい陽菜を見ているんだ。
その日の夜。
部屋を暗くしてベッドに潜り込むと、鼓太郎くんからメッセージが届いた。
《今日、遥斗から聞いた。日曜、お前と陽菜と三人でカフェ行くんだって?》
《うん。そうだよ。楽しみだな》
本心とは真逆の文字を打つ。すると、すぐに鼓太郎くんから電話がかかってきた。
驚いて通話ボタンを押すと、耳元から少し焦ったような、そしてひどく沈んだ鼓太郎くんの声が聞こえてきた。
『……詩織? お前、本当にそれでいいの?』
「え? なにが……?」
『あいつ……遥斗のやつ、不器用すぎて本当にムカつく。お前の気持ちも知らないで、お前を利用して陽菜に近づこうとしてる。俺、あいつの幼馴染だけど……今回ばかりはあいつに腹が立つよ』
鼓太郎くんの言葉で、私の細い希望は完全に打ち砕かれた。
やっぱり、そうなんだ。
遥斗くんのリアルでの「喋りかけたいけど喋りかけられない不器用さ」は、私に対してじゃなくて、陽菜に対してだったんだ。
『詩織。辛かったら、行くのやめろ』
「ううん……」
私の声は、小さく震えていた。
リアルでは声が出ない。でも、この涙だけは、どうしても止まってくれなかった。



