メッセージは得意なのに、君の前では声が出ない。

《今日、髪型違ったね。すごく似合ってた》

夜の11時。ベッドの中でスマホの画面を見つめながら、私は小さく悲鳴を上げた。胸の奥がキュンと跳ねて、苦しくなる。
メッセージの送り主は、クラスメイトの佐倉遥斗くん。

《本当? ありがとう! 気づいてくれて嬉しいな(^^)》

画面の私(テキスト形式)は、驚くほどお喋りで、大胆で、可愛い女の子を演じられている(気がする)。フリック入力する指先は迷わない。送信ボタンだって、なんの躊躇もなく押せる。

だけど――。

「……おはよ」

翌朝の学校の昇降口。すれ違いざま、遥斗くんが私を見て、ボソッと声をかけてくれた。
その瞬間、私の心臓は爆発しそうになる。喉の奥がキュッと閉まる。頭が真っ白になって、言葉の引き出しが全部ロックされてしまう。

「あ、う、……っ」

結局、変な声を出してコクコクと鳩のように頷くことしかできなかった。遥斗くんは少し寂しそうな、困ったような顔をして、そのまま通り過ぎていく。

「……はぁ」
激しい自己嫌悪で崩れ落ちそうな私を、横から呆れた声が襲った。

「ちょっと詩織! また喋れなかったの? あんたら毎日毎日、何千文字メッセージ送り合ってんのよ。いい加減、リアルで喋りなよ!」

腰に手を当てて笑うのは、私の大親友の陽菜。ひまわりのように明るい笑顔で、いつも私の背中を押してくれる。

「本当にじれったいんだよ、お前ら」
そこに陽菜の幼馴染の鼓太郎くんも加わる。彼は遥斗くんの親友でもあるから、余計にこのもどかしい関係に呆れているみたいだ。

「遥斗だってさ、お前とすれ違ったあと『今日も喋れなかった……』って死ぬほど落ち込んでんだからな?」
「えっ、遥斗くんが……?」

鼓太郎くんの言葉に、胸が痛いほど高鳴る。遥斗くんも私と同じ気持ちなんだ。そう思わずにはいられなかった。

「……まぁ、そういうことにしとけば?」

少し離れた席から、読書をしていた麗が冷ややかな、だけどどこか悲しげな声を割り込ませてきた。麗はいつも冷静で、私と遥斗くんのやり取りをじっと見つめている。

「え? 麗、どういうこと?」
陽菜が不思議そうに首を傾げたけれど、麗はそれ以上何も言わず、ただ私を見て小さくため息をついた。

その時の私は、麗のため息の意味を知る由もなかった。
私のスマホが、ポケットの中で小さく震える。

《さっきはごめん。緊張しちゃって。ねえ、今度の日曜ってさ……》

続く文字を見つめながら、私は幸せの絶頂にいた。
これが、残酷な勘違いの始まりだとも知らずに――。