バーの灯りが紡いだ約束

明美は、仕事の合間のわずかな休憩時間を使って、インスタグラムライブを配信することにした。「少しだけでも、応援してくれている皆さんとお話ししたい」という想いからだ。
スマートフォンをスタンドに固定し、画面がオンになると、瞬く間に視聴者数が増え、コメントが次々と流れ始めた。
「こんにちは、石井明美です。
お昼休みに少しだけお邪魔しますね」
そう挨拶したところで、ゲストとして麻倉未稀が画面に登場した。
「明美ちゃん、お疲れ様! 私もちょうど休憩だったから、一緒にお話させてもらうわ」
二人は和やかに近況を話したり、リクエストに応えて軽く歌ったりして、配信は穏やかに進んでいった。
一方、ドラマの撮影現場でも、ちょうど休憩時間になった。末山愛斗は、スマホを開いていつものように明美のアカウントを確認すると、ライブ配信が始まっているのに気づいた。
「間に合った…!」
人目を避けて控え室の隅に座り、画面に見入る。普段の仕事姿とは違う、リラックスした明美の横顔を見ていると、思わず胸が熱くなり、指が自然とコメント欄を打った。
「明美さん、大好きです! 今日も本当に綺麗です」
その文字が、ぽつんと画面に表示された。
明美はコメントを目にして、アイコンと名前を確認すると、ふんわりと柔らかく微笑んだ。そして、少しだけ背筋を伸ばし、はっきりとした声で言った。
「皆さん、聞いてください。実は私、末山愛斗さんとおつきあいさせていただいています。これからも、温かく見守っていただけたら嬉しいです」
突然の報告に、コメント欄は一気に沸き立った。
驚きの声、祝福の言葉が次々と流れていく。愛斗は画面を見つめたまま、心がいっぱいになって、しばらく動けなかった。「自分のことを、こんなに堂々と言ってくれるなんて…」

休憩時間が終わる合図が鳴り、愛斗は気持ちを新たに撮影現場へ戻った。先ほどの嬉しさが、そのまま役の心の動きに重なり、いつも以上に集中して演技に没頭することができた。何度かリテイクを重ねたシーンも、最後は監督から「OK、最高だ!」と声をかけてもらい、無事に一日の撮影を終えることができた。

約束していた場所に駆けつけると、明美がすでに待っていてくれた。そのすぐ後から、麻倉未稀も合流し、三人で落ち着いた雰囲気のレストランへと向かった。

食事が運ばれてくるのを待ちながら、明美が隣に座る愛斗の背中をそっと押した。
「改めて、紹介するわね。こちらが末山愛斗くんです」
未稀はにっこりと笑い、愛斗に向かって頷いた。
「ライブで聞いたわよ。おめでとう。明美ちゃんが選んだ人なら、間違いないと思ってる。これからも二人で、ゆっくり歩いていってね」

それから三人は、仕事の裏話や、昔の思い出、これからやってみたいことなど、話が尽きることなく盛り上がった。愛斗も、憧れの二人が自分のことを受け入れてくれているのを感じて、安心して自分の言葉で話せるようになっていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、レストランを出る頃には辺りはすっかり夜になっていた。未稀と別れを告げ、愛斗は明美を家まで送り届けた。

玄関のドアを閉め、二人だけの空間になると、言葉はもういらなかった。愛斗は明美をそっと抱きしめ、彼女も応えるように腕を回し、ゆっくりと唇を重ねた。
夜の帳に包まれた部屋の中で、お互いの鼓動と温もりを全身で感じながら、二人は深く、心から愛し合った。