慌てて顔を擦ろうとした私の手を、先輩の大きな手がスッと制止した。
それから、先輩の長い指先が私の頬に伸び、そっと、熱を帯びた皮膚を撫でた。
「……ほんと、不器用なくせに一生懸命だよな、お前は」
親指で優しくペンキを拭い取りながら、先輩の顔がゆっくりと近づいてくる。
触れ合う息。
今、月明かりに照らされた先輩の瞳には、私一人だけが映っている。
「明日は、いよいよ本番ですね。……私たち1年A組、絶対に負けませんから」
震える声で精一杯の強がりを口にすると、朔先輩は目の奥で笑った。
それから……私の耳元に顔を寄せて、甘く危険な声で囁く。
「ああ、せいぜい頑張れ。……だけど、俺たちが勝ったら、言うことを『何でも』一つ聞く約束、忘れてないよな?」
「っ……忘れて、ないです」
「いい子だ。……明日のメイド服、楽しみにしてる」
ちゅっ、と。
耳たぶに、熱い唇がかすったような気がして、私は声にならない悲鳴をあげる。
先輩は悪戯っぽく微笑むと、私の頭をポンポンと撫でて一歩下がる。
「ほら、帰るぞ。夜道は危ないから、俺がロイヤル棟までエスコートしてやる」
文化祭前夜、誰もいない夜の教室での、甘くて危険な宣戦布告。
いよいよ明日、波乱だらけの『聖ステラ祭』の幕が上がる――!


