「どう? 朔!」
藍里先輩が胸を張って、ソファの朔先輩を見る。
朔先輩は、立ち上がるとゆっくり私に近づいてきた。
いつも冷静な絶対君主の瞳が、少しだけ大きく揺れている。
先輩の耳元が、ほんのり赤くなっているのが見えた。
「……悪くない。……っていうか、似合ってるな」
ぼそっと呟かれたその言葉に、胸がキュンと甘く跳ね上がる。
「よし、この勢いでデートの予行練習行くか――」
気合を入れる蓮先輩の言葉を遮るように、リビングの柱時計が、ボーン、ボーンと午後四時の訪れを告げる重い音を立てた。
(……あ、やばっ! もうこんな時間!?)
「大変! お母さんとお父さんに『土曜の夕方には帰る』って約束してるんです! 私、家に帰らなきゃ!」
「ええっ!? 今すごく良いところなのに!?」
藍里先輩が「せっかく可愛くできたのに〜」と頬を膨らませる。
私は大急ぎで顔を洗ってメイクを落とし(藍里先輩は『もったいない!』って半泣き。ごめんなさああい)、いつもの地味な服に着替えてボストンバッグを抱えた。
「先輩方、プロデュースの続きは日曜日に帰ってきてからお願いします! 本当にありがとうございましたっ!」
「あ、おい陽菜! 途中まで送る!」
慌てて玄関へ突進する私と、それを追いかける男子三人。
こうして魔法は一度解け、私は一週間ぶりの森下家で、日曜日まで過ごすことになったのだった。


