「ちょっと……お、大きくないですか、これ」
恥ずかしさを隠すようにリビングに戻ると、キッチンから信じられない匂いが漂ってきた。
トントン、と不器用な包丁の音が響いている。
「あれ、先輩……? 何してるんですか?」
「あ? 見ればわかるだろ。おかゆ作ってんだよ」
コンロの前に立っていたのは、朔先輩だった。
前髪を私のヘアピンで留めて、真剣な顔で鍋をかき混ぜている。
あの『学園の神様』が!
私のために料理をしてくれている……!?
「先輩が料理なんて、できるんですか……っ?」
「おいバカにすんな。これくらい見よう見まねでできる。ほら、座れ」
テーブルに置かれたのは、湯気がふんわりと立ち上る温かい卵がゆ。
先輩は私の目の前に座ると、スプーンで丁寧におかゆをすくい、自分の唇でふー、ふー、と優しく息を吹きかけて冷まし始めた。
そして、そのまま私の口元にスプーンを差し出してくる。
「はい、口開けて」
「えっ!? じ、自分で食べられます!」
「だめ。今日くらいは、大人しく俺に甘えとけ」
先輩の瞳が、とろけるように甘く私を見つめる。
心臓がバックバクと暴れる音を立てる中、私はおずおずと口を開いた。
「……おいしいです……」
「だろ? 俺の特製。……いっぱい食って、早く元気になれよ」
優しい味が口いっぱいに広がって、理科室での恐怖が完全に溶けていく。
夢中で食べていると、先輩の手がすっと伸びてきて、私の頬についた米粒を親指で優しく拭い取った。
触れられた箇所が、じわりと熱くなる。
先輩はその指先を、事も無げに自分の唇で舐めとった。
「な……っ!?」
「何驚いてんだよ。……陽菜、こっちおいで」


