授業が終わった後は一目散にロイヤル棟に、逃げ帰る。
私は気合をいれるため、髪をお団子に結い上げ、エプロンをきゅっと締めて、キッチンに立っていた。
学校での嫌がらせを思い出すと胸が締め付けられるように苦しいけれど、3人に心配をかけまいと、私は必死で「いつもの笑顔」を作っている。
「ねえ、陽菜。……今日の紅茶、なんか薄くない? 淹れ方間違えたでしょ。僕、怒るからね」
ソファーに座った藍里先輩が、手元のティーカップを見つめながら不満げに唇を尖らせる。
いつもなら「じゃあ自分でやってください!」って言い返せるのに、今日の私は、頭がぼーっとしていて、本当に間違えてお湯を多く入れすぎてしまっていた。
「あ……すみません、藍里先輩。すぐに新しく淹れ直しますね」
いつもの元気がなく、素直に謝ってキッチンに戻ろうとした私の背中に、藍里先輩が「えっ……」と戸惑ったような声を漏らす。
即座に反論するはずの私が、あっさり引き下がったのが意外だったみたいだ。
そこへ、蓮先輩がドカッとソファーに腰掛け、私の前にぽいっと小さな紙袋を放り出してきた。
この間お礼にくれた、あの超有名店の高級マカロンのロゴが入った袋。
「おい、陽菜。それ、やるわ」
「え……? またマカロン、ですか? あ……トリュフだ……きれい」
「学校の近くを通ったら、なんか余ってたから」
ツンとそっぽを向いて、耳を少し赤くしながら言う蓮先輩。
だけど、今日の私の心には、その温かさが全くなす術もなく染み込んできて、じわっと視界が潤みそうになってしまう。
「……ありがとうございます。すごく、嬉しいです……」
受け取る私の声が、ほんの少し震えていた。
その瞬間、蓮先輩のちゃらちゃらした雰囲気が、ピキッと凍りついた。
蓮先輩はふと表情を消し、立ち上がって私の顔を覗き込んでくる。


