大財閥の跡継ぎとして、幼い頃から一瞬の油断も、弱音を吐くことも許されずに育ってきた朔先輩。
風邪をひいて熱を出しても、きっと「完璧であれ」と育てられ、甘えることすらできなかったのかもしれない。
(……朔先輩も、ずっと一人で戦ってきたのかも)
冷たい仮面の下に隠されていた、気が遠くなるほどの孤独。
そう思うと、なんだか胸が締め付けられるように愛おしくなって、私は空いている方の手で、先輩の黒髪を優しく撫でた。
「……大丈夫ですよ、先輩。私はどこにも行きません」
「どこにも……?」
「はい。お粥を作ったら、ずっとここにいます。だから、待っててくださいね」
私の言葉に、先輩はしばらくじっと私を見つめていたが、やがて安心したように小さく息を吐き、ゆっくりと手を緩めてくれた。
「……早く戻ってこい。待ってるから」
熱っぽく甘い声に見送られながら、私は波打つ鼓動を抑えて、急いでキッチンへと向かった。
卵とネギを入れた、優しくて温かいお粥。
それをトレイに乗せて部屋に戻ると、朔先輩は律儀に上体を起こして待っていた。
「はい、お粥です。フーフーして食べられますか?」
「手が上がらない。……陽菜、食べさせて」


