断る選択肢なんて、最初からなかった。
家事なら、共働きの両親に代わって毎日こなしている。
料理だって洗濯だって、同じ年くらいの皆に比べたら、自信がある。
(いくらワガママな金持ち坊ちゃんたちだからって、そんなに大したことしなくても大丈夫だよね!? 要は、ご飯作ったりお掃除したり洗濯したりとかの、一般的な家事するんだよね? お世話係って)
……そう、この時の私は、完全に高を括っていたのだ。うん……。
夕方。
手渡された鍵を握りしめ、私は学園の敷地奥にひっそりと佇む『ロイヤル棟』の前に立っていた。
ヨコハマの異人館みたいなお洒落な洋館。
ここに暮らすのは、テレビのニュースや雑誌の表紙でしか見たことのない、学園の絶対的頂点たちだ。
ごくり、と唾を飲み込み、重たいドアを開ける。
「失礼します……! 今日から新しくお世話係になりました、森下――」
挨拶の途中で、言葉が凍りついた。
「う、嘘でしょ……?」
そこにあったのは、きらびやかな高級家具……を埋め尽くすほどの、脱ぎ散らかされた服、散乱した書類、空のペットボトル。
そして、リビングの高級ソファの足元。
ふかふかの絨毯の上に、誰かが行き倒れるように倒れていた。
「ちょっと!? 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、その人物の肩を掴んで仰向けにする。
無造作に乱れた黒髪の間から覗いたのは、息を呑むほど整った、美しい顔立ちだった。



